デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

音楽のインターネット配信が広がりを見せる中、明日の音楽業界はどうあるべきか論じた良書。
キャッチフレーズは、「水のような音楽」。音楽は、蛇口をひねれば出てくる水道水のようにどこでも手に入り、水のようにいたるところに流れ、コストも月々の水道代のように安い。そして、上下水道事業が公共事業であるように、音楽配信も定額制の「公共事業」にしたらどうかと提案する。つまり、国が利用者から小額の音楽使用税を徴収するかわり、P2P のファイル交換を完全に合法化して、音楽流通を促進。そして、国が音楽家にファイルのダウンロード数に比例して、報酬を払うのだ。


その一方で、アーティストは、現在のレコード会社を「中抜き」し、ファンと直接関係を持つべきだと説く。ファンのコミュニティを作り、コンサート・広告・タイアップ・関連グッズという音楽から派生するビジネスから稼ぐべきだという。ファンの層を増やすためには、コンテンツ(曲)自体は無料化してもいいのではないかと述べている。


僕が言いたいことは、アマゾンの書評に大体書いてある。このなかで ktdisk 氏は、

本書の要旨は上記の津田氏の解説が必要にして十分。ただ、上記の解説をして「あぁ、音楽業界本かぁ」と片付けるのはあまりに惜しい。
というのも、一歩引いてみると本書は素材があくまで音楽というだけで、新しい技術が生まれ、社会に影響を与え、エスタブリッシュメントがそれに抗い、最終的にはよりよい仕組に置き換わる、という「技術と変革の歴史」をつづる歴史書のような性格ももつからだ。

全くその通り。同様の革命は、映画、そして書籍の流通でも起きるにちがいないと確信している。だからこそ私は本書に注目したい。


難を言えば、さすらいの旅人氏の言うように、

大筋は正しいとは思うながら、さまざまな疑問も残る。
解説で津田大介氏が音楽配信ならではの成功例として、世界中でダウンロードされた布袋とBOOMをあげていたが、本書では、そういった事例紹介が少なく、CDの売上げや価格など、データも非常に少ない。


全般に著者の「こうあって欲しい」という希望論と未来予想が曖昧になっている。
大きな話の流れを知るには、いいのかもしれないが、抽象的で根拠が希薄に感じられる。
よって、☆☆☆。

確かにそうなのである。もう少し、データや参考文献などの引用があれば、より説得力があったと思うのだが。
直感的には、私は本書の作者に全面的に賛成する。作者も僕と同様に直感派で、自分の熱い気持ちを抑えきれず、客観的データで裏づけするなんてまだるこしいことをやってられなかったのかもしれない。絶対に自分が正しいはず、という気持ちがつい先走ってしまった感があるのは残念。しかし、人々の心を煽るアジテーターとしては成功と言えるかもしれない。


本書に関連して、「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言や「デジモノに埋もれる日々: その利益は守れるか? - コンテンツ産業が直面する前門の虎、後門の狼」 などあわせて読むと興味深いかもしれない。特に「前門の虎、後門の狼」は言いえて妙である。(まったくユーモラスながら深い考察。さすが人気ブログは違うね)


結局のところ、ネットリテラシーの高い人たちは、インターネットのコンテンツ流動性の高さに目をつけて、コンテンツが縦横無尽にネットを流れる姿が未来であろうという点では一致するものの、「どうやったらカネが稼げるの?」というところでは確信がもてないようである。私は私で、なんとか答えを探して行きたいと思っている。