フューチャリスト宣言

梅田望夫茂木健一郎フューチャリスト宣言」が熱い。ネットでいろんな人が言うように、確かにネットに首からつま先までどっぷりつかって生きている人間にとっては目新しい内容はあまりない。それでも脳とインターネットは相似形であるとか、茂木さんにはっきり言われると、ああやっぱりそうだよね、とか思ったりはする。それより、これは基本的に政治な本であることが重要だ。だから「○○宣言」という題名がついているのだ。カール・マルクスフリードリヒ・エンゲルスによる「共産党宣言」のようにね。現状に対する異議申し立てであり、あるべき未来社会へのビジョンを語った書である。

とにかく私の立場をはっきりさせておくと、この本は好きだ。エベレストがマリアナ海溝に沈み、そこからオリンパス山が再び隆起してくるくらい好きだ。私もまた梅田さんのように日本の談合社会に嫌気が差して、外国に逃げたことがある人間で、梅田さんの感じている日本社会への怒りや閉塞感は深く共感できる。だから、この二人が南国の夏の日のような明るさで未来を肯定し、それがインターネットとともにあることを宣言するのがとてもすがすがしい。

未来は予想するものではなく、創り出すものである。そして、未来に明るさを託すということは、すなわち、私たち自分自身を信頼するということである。
私たちが人間を信頼すればするほど、未来は明るいものになっていく。少なくとも、私と梅田さんは、そのように信じている(茂木氏)

小気味よいまでの現状批判。

バックアップ体制と言ったときに、官僚的なロジックでお金をいくらいくら出して、というのは全然だめで、本当に必要なバックアップ体制って、社会における精神なんですよね。欠点を含む小さな芽に対して「良き大人の態度」が取れるかということ。ここが一番のボトルネックです。日本は新しいことをやった人を賞賛しないですね。それが根源的にまずい。新しいことがはじまると最初は不安だし、何か既存のやり方や既得権にさわっていくという直感から、危険性をまず指摘する。それがよくない。日本はその度合いが強いです。(梅田氏)

だから新しいことが始まらないんだよな、この国では。

グーグルを含めネット世界で総体として起ころうとしている大変化の雰囲気は、幕末から明治にかけての気分に近いんだと思います。それはリアル世界にも大きなインパクトを与えます。でも全体として、黒船が来たことに対する知的作業というのを放棄しちゃっていますよね、いまの日本社会は。新しく生まれた大きな存在に対して、「気に入らない」と言っていると何とかなってくれるんじゃないかと思っている。(梅田氏)

この部分は、「Google には決めさせない。俺が決める!」というオジサマ方が日本を仕切っているという現状と見事に符号している。

ウェブ進化論」では、梅田さんはいわゆる日本のエスタブリッシュ(既得権益)層に「ネットってこんなに素晴らしいんですよ!」と語りかけたが、「フューチャリスト宣言」はむしろこれから日本を創っていく子供たちに向けて書かれたのではないか。

だから、僕が期待しているのは、そういうことを自然に理解する感覚をごく普通にもっている若い世代ですよ。2015年になると、1975年生まれの人が 40歳になる。40歳になると、企業組織でもどこでもかなり実権を持つ。2015年ってすぐ来ますよ。日本はその頃に変わる。2020年になれば、45歳以下が全部その世代になりますからね。(梅田氏)

それはこの本が中学生と大学生にそれぞれ向けられた2つの「特別授業」で締めくくられていることからもわかる。

ほかにも「楽しくてしょうがないという人しか勝てない」とかスリリングな文章がたくさんあるのだが、今日はこれくらいにしておく。とにかく楽しく明るい気分にさせられる本だった。

梅田さん・茂木さん、私は 1970 年生まれですが、気持ちは完全に私に続く世代とともにあります。フューチャーリスト同盟に乗らせてもらいますよ。