My Job Went to India

My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド

My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド

著者の Chad Fowler は、rubygems を作った偉大なハッカーである。そんな彼がソフトウェアのオフショア開発チームを立ち上げるため、インドに向かう。そこで過ごした1年半に感じたことをまとめたのが本書の内容になっている。アメリカはインドを始めとする、安価で優秀な海外の人材に IT 関係の仕事を奪われてきた。Chad は、そんなオフショア開発の流れの中で、高賃金=高コストの IT 人材としてアメリカで生き残るためには何をしなければならないか説く。内容はごく順当で「単純なコーディングの仕事はもう戻ってこないから、上流工程に行って、ビジネスも技術もわかる人になろうね」ということだ。ユーモアのセンスもあるし、なかなか面白い本ではあるのだが、私にとってはけっこう当たり前という感じで、「画家とハッカー」を読んだときのような痛快感はなかった。

私は2004年から2006年にかけて、インド系のある IT 企業でオンサイト・コーディネーター(≒ブリッジ SE)をしていた。職場は東京であったが、ムンバイやプネ(ムンバイ郊外にある都市)のオフショアチームと電話やメールでやりあったり、東京で机を並べてインド人と一緒に仕事をしたりした。だから、Chad Fowler の言っていることはよく理解できた。ときどきにやりと笑える部分もあったりした。たとえばこんなところ。

僕は南インド風の朝食の香りを振り切って階段を駆け下り、玄関を飛び出して迎えの運転手を呼ぶようにドアマンに声をかけた。運転手に長いこと待っていたかを尋ねると、そのとおりだった。しかも2時間。なんてこった。

車に乗ってから5分間ずっと、僕のせいで待たせてしまったことを Joseph にひたすら謝った。彼はあっさり笑って言った。「それが仕事ですから。一日中でも待っていますよ」後からわかったことだけど、これは冗談でも皮肉でもなかったらしい。

なぜなら、彼は Chad Fowler 専属の運転手であり、待ち続けるのが仕事だからだ。ムンバイで私が見たインドもこんな風だった。インドは、階級の上下関係が厳しい。目下の存在は、目上に対してひたする恭順を示す。私は、ビジネスで行ったからホテルの従業員から "Sir" とか呼ばれてくすぐったい思いをした。4年間住んだカナダでは、毎日英語を話していたけど、そんなふうに一度も呼ばれたことがなかった。

オフショア開発なんて対岸の火事みたいに思っているパラダイス鎖国な日本の SIer さんたちには、ちょっと参考になるかもしれない本だ。