2年ぶりのソウル

9月26日の午後、韓国版新幹線 KTXプサンからソウルへ到着した。車中では最初、となりに座った若い女の子は、30分くらい彼氏と携帯電話でボソボソ話した挙句、電話が終わるとおもむろにマニキュアを塗り始めた。私は、実は席を間違えて座っていて、途中、デグで正しい席に移動した。その新しい席に座っていたのは、浅黒い肌をした田舎風の韓国人のおじさんだった。移動して、10分くらいすると、彼は「日本人ですか?」といって日本語で話しかけてきた。彼は山口県にもう4年住んでいるという。プサンの韓国企業の日本支店長のような立場で、貿易をやっているらしい。「・・・しよる(している)」とか「・・・け(だから)」とか山口弁丸出しで、韓国人というより、山口県の日本人のおじさんと話しているような気分になって面白かった。素朴なよいおじさんであった。

ソウル駅に到着すると、美しい秋晴れで、空気がやや肌寒い。私はあわてて、上着を着込む。しかし、湿度は低く、風が非常に心地よい。ああ、2年ぶりのソウル!!感無量である。

タクシーを拾って、市庁(シチョン)近くのプレジデントホテルにある日本の旅行会社 HIS に向かう。中国へのチケットを買うためだ。初老のタクシーの運転手は、テンションが高く、去年、東京に観光に行ったとか、最近の日本経済はどうだ、とかさんざんしゃべった挙句、私が「昔6ヶ月韓国に住んで韓国語を勉強した」というと、「半年でそんなに韓国語を覚えたのか、お前は、頭がいいな!頭が!」と頭をガンガン小突いた。(韓国では客が助手席に乗るのが普通なのだ)タクシー運転手が、普通、客の頭をたたくか?面白すぎる。

HIS では、いかにも生真面目な若者がいろいろ親身になって相談に乗ってくれた。なので、職員は韓国人だが日本語はペラペラである。ただ値段が思ったより高く商談は成立しなかった。その後、隣のビルにある韓国の大手旅行会社トップ航空へ行った。若いかわいらしい女子職員が対応してくれた。私は、韓国語に不安があったけれども、親切に対応してもらえた。杭州行きの安いチケットを購入できた。韓国人は、日本人のように無駄な愛想は振りまかない。だから、韓国人の接客係を接するとややそっけない印象を持つ。だが、最後私が「大変お世話になりました」と丁寧に礼を述べると、恥ずかしそうなあどけない笑顔を見せてくれた。私は、日本のロボットのような笑顔の接客より、こういう素朴な接客に好意を持つ。世界中どこに行っても、普通は韓国みたいな感じなんだけどね。日本だけが特別なのだ。

その後、またタクシーを拾って、インサドン近くの Banana Backpackers というホステルへ向かう。到着すると、見かけは普通の一軒屋である。ロビーには洋楽がガンガンかかっていて、白人たちがたむろしている。雰囲気は完全に欧米のバックパッカーズである。受付と話をしたところ、なんと私は予約したつもりが予約が入っていないことが判明。抗議をして、このホステルからのメールを見せると、確かに「部屋は空いている。予約したかったら確認メールを返送せよ」と書いてあった。やれやれ。この受付の韓国人のあんちゃんはこっちが嫌な顔をすると、すぐ反応して「なんか文句あるのか?」と逆切れした。短気なやつだ。

仕方ないので、ガイドブックを見て、ほかの安宿に電話を掛けまくった。満員のところが多かったのだが、唯一、大元旅館というところだけが、一部屋空いていた。タクシーを再び拾って、その旅館に向かう。(別にタクシーを好きで使っているわけではない。スーツケースが重いのでそうしているだけだ。まあ、タクシーは初乗り1900ウォン(190円)で地下鉄(1200ウォン)とたいして変わらないのというのもあるけど)

このタクシーの運転手も初老でテンションが高かった。突然大声で、「韓国・日本・中国の東洋人が団結して、アメリカを打ち負かそう!東洋人は金を持ってるぞ!」とか叫びはじめた。そのあともとうとうと演説が続いたが、早口のダミ声で、半分も聞き取れない。しかたないので、適当に相槌を打った。本当に韓国のタクシー運転手は面白すぎる。旅館が近づいたとき、運転手に頼んで旅館の正確な位置を尋ねてもらった。ひとしきり運転手は旅館の人と大声で話したあと、私に向かって「ここで降りて待っていろ!」と叫んだ。タクシーを降りて、そこでしばらく私は待っていると、人のよさそうな韓国のおばちゃんが、遠くから手を振っている。私のスーツケースをみて、旅行者だとわかったのだろう。手招きの方向に歩いて、おばちゃんのあとをついていくと、そこが大元旅館であった。古い韓国の家を改造したようなつくりで、私は3畳くらいのオンドル部屋に通された。値段は20,000ウォン/泊。安い。私は、この部屋がすっかり気に入ってしまった。せっかく韓国に来たんだからオンドル部屋に泊まりたかったのだ。

部屋で生乾きの洗濯物を干そうと、壁から突き出している電球と扇風機の間にヒモを張ろうとすると、壊れかけていた電球が完全に壊れてしまった。結局、その夜は明かりがなかった。いざというときに持ってきていたペンライトが大活躍した。やれやれ。

大元旅館の客層は、日本人が半分、西洋人が半分という感じである。こういう宿はなかなか珍しい。普通は、日本人宿と西洋人宿にはっきり分かれてしまうものだが。私にとっては非常に居心地がよい。

夜は、カナダ時代の韓国人の友人 J と会う。昔話に花が咲き、ソジュ(韓国焼酎)とドンドンジュ(韓国どぶろく)を飲みすぎた。

実に楽しい一日であった。