ニャチャンからダラットへ

今朝のニャチャンも快晴である。湿度もさほど高くなく、実に快適である。今日は「ベトナムの軽井沢」高原都市ダラットへ向かう。
いまニャチャンのハンカフェという旅行会社のオフィスで、ダラット行きのバスを待っているのだが・・・。

このオフィス、朝から非常に興味深い。

このオフィスのカウンターに、口ひげを生やした眼光鋭い男が働いている。顧客とやり取りし、電話を処理し、精力的に働いている。それだけなら、東京の旅行会社の社員とさほど変わらないのだが、彼の手元を見て驚いた。彼の左手の手首から先は完全に失われていて、右手も手のひらに、足の親指のような「指の痕跡」を残すのみである。年の頃、私と同じ、40歳前後のように見える。彼が生まれた頃、まだベトナムは戦争中で、いわゆる「枯葉剤」の健康被害を受けた子供だったのかもしれない。きれいな英語を話し、わずかに残った右手の5指を巧みに使って、健常者を変わらぬスピードで、帳簿になにやら書き込んでいる。

口ひげの男と話していたデップリ太ったちりちりパーマの欧米人の中年女性が、声を上げてまくし立て始めた。
「何ですって?私は10万ドン(600円)しか持っていないのよ!どうしてくれるの?昨日は、ここの職員は、サイゴンまでのバスは10万ドンだって言っていたわ」
「だから、寝台バスは20万ドンなんですよ。今日は、座席バスが出ていないので、寝台バスに乗るしかない」とうんざりしたように、口ひげの男。
このおばさん、あまり教養がなさそうだ。外国人なのに本当に10万ドンしか持っていないのか?いったいどういうつもりでベトナムにいるのか、そのほうが興味深かった。

と思うと、今度は東洋人の品のよさそうな初老の男性が、私に英語で「中国語か、フランス語が話せますか?」と聞いてきた。中国語か、フランス語?面白い組み合わせだ。2分後、初老の男性は、どこからか中年の品のよさそうな欧米人の婦人を連れてきて、彼女を通訳に、口ひげの男と話しはじめた。会話が始まるとすぐに、初老の男性は興奮してなにやら大声でまくし立て始めた。どうやら、この欧米人の婦人はフランス人らしく、初老の男性はフランス語で何かを欧米人の婦人に話し、婦人は口ひげの男に英語で伝えている。初老の男は、怒鳴りながら、盛んにパスポートを振りかざしている。どうやら、この初老の男性は、中華系カンボジア人らしく、ビザかなんかの問題で、ベトナム当局ともめているらしいのだ。口ひげの男は盛んに初老の男性をなだめようとしているのだが、彼は聞く耳を持たないようだ。

やれやれ。今朝は、口ひげの男、災難だな。