ファムグーラオ通りの夜

ファムグーラオ(Pham Ngu Lao)通りとヴイビエン通り(Vui Bien)に挟まれた一角は、ベトナムを代表する安宿街である。ちょうどタイ・バンコクカオサン通りのような場所だ。私は、薄味のベトナム料理がやや飽きてきたころなので、ヴイビエン通りにある韓国料理店に夕食を食べに行くことにした。

韓国料理店まで行く途中、ホテルの近くの行商のおばさんが、英語の本を売っていたので、Lonely Planet Vietnam を買った(Lonely Planet は世界で一番有名な個人旅行ガイドブックである)。このおばさんとのやり取りが面白かったので、ここに記録しておく。おばさんは、最初、私に28ドルと言ってきた。本の裏をみると、USA $23.99 と書いてある。私が駄目元で、24ドルでどうだ?というとアッサリいいよ、という。あれ?ベトナムでは Lonely Planet はもっと安く買えるのかしら?私が、少し戸惑っていると、おばさんはそわそわしだして、いくらなら買うんだ、値段を言ってみろ、といい始めた。まあ、この時点で本来、私は事のカラクリに気づくべきだったのだ。しかし、まさかこの本が偽物の Lonely Planet とは気がつかなかったので、15ドルでどうだ?と言ってみた。すると、するとおばさん曰く、「これは15ドルで仕入れたんだ。ここは私の顔を立てて、2ドルの利益を出させてくれ」と17ドルでどうだ、と言ってきた。まあ、そういうこともあるかと思って私は17ドルでこの本を買ったのだが、買った後でよくよく見ると、これはコピー品であることに気づいた。ところどころ、文字がかすれていたり、ページが斜めに傾いたりしている。しかし、なかなか精巧にできている。とくに、カラーページに気合が入っている。表紙もよくできていて、遠目には偽物とは気づかない。(本物と並べればすぐ偽物だと分かるが)だが、安い紙を使っている分、本物より軽いし、表紙の手触りもなかなかよい。それに本物はベトナムでは少なくとも $ 23.99 以上だろう。というわけで、おばさんには「ぼられた」のにもかかわらず、まあいいか、という気分である。

商売ではコスト構造に深い知識を持つほど有利に交渉を進めることができる。おばさんは、おそらくは数ドルでこの本を仕入れただろう。10ドルで買ってあげても、十分利益が出ただろう。今回は、そういうカラクリがあることを知らなかった私の負けである。だが、次回からは「偽物でしょ?もっと安くしてよ。そうしてくれなければ他で買うだけだから」と言える。これが知識の力というものだ。

今日、確認した基本原則は、ベトナムでは道端でモノを売っている人からモノを買ってはいけないよ、ということだ。とくにヒマそうにしている連中は危ない。ヒマなのは市場価格から隔離した高値で売っているので、客がつかないからだ。彼らは、必ずワケアリの品をワケアリの価格で売っている。その仕組みを知った上で、適正な価格で買えば、問題ないかもしれないが、普通の外国人にそれをするのはほぼ不可能だからだ。

韓国料理店では主人の韓国人男性と韓国語で会話した。彼は私と同い年くらいだろうか。実は奥さんは日本人だそうで、今年結婚したばかりだそうだ。ベトナムハロン湾観光に出かけるバスで、たまたま隣に座っていたのが今の奥さんだったそうで。そんなこともあって、どういうわけかいまはベトナムで商売をしているらしい。

そうかと思えば、中国人が経営している旅行代理店もあった。このファムグーラオ通り界隈は、ベトナムで一番国際化の進んだエリアなのだろう。