新築祝い

今日は、日曜日。私の東京でのベトナム語先生であるハーさんの彼氏であるニャットさんが、朝早くホテルに来て、遊びに連れて行ってくれた。到着したのは、ホーチミン市内のしゃれたカフェ。このエリアは、東京で言えば青山のような、おしゃれなエリアである。この前会った時も、ニャットさんは、素敵なカフェに連れて行ってくれた。それもそのはず、彼の将来の夢は、自分のカフェを持つことだという。

やがて、50過ぎの優しげな表情の女性がそのカフェに現れた。ハーさんの友達というには、ちょっと年が離れているが、彼女にとってはよき相談相手であるらしい。名前はタオ(Thao)さんといい、政府の法務省のお役人だそうである。旧ソ連時代にロシアの大学に留学し、ロシア語と英語が堪能である。世界各地を仕事で訪れたというから、相当地位の高い公務員であろう。物腰はあくまでも柔らかく笑みを絶やさない。教養を感じる洗練された女性であった。

タオさんいわく、ベトナムでは、公務員の人気が最近急落しているそうだ。経済成長により、民間部門のほうが給料がよいから、というのがその理由らしい。公務員試験はあるのか、とたずねると、中央官庁の採用試験は難しいが、地方政府なら比較的簡単に入れるそうだ。失礼かと思ったが、思い切って、ベトナムではまだ公務員の汚職はありますか?と尋ねてみた。すると、彼女は、ひょっとしたらますますひどくなっているかもしれません、と苦笑した。官庁の優秀な人材が、そういう古い体質に嫌気が差して、民間へ流出しているという部分もあるそうだ。ただ、彼女は、社会全体しては昔に比べるとずっと発展を遂げています、と付け加えた。

タオさんは、今日は友達の家の新築祝いに呼ばれているという。私とニャットさんも、その新築祝いに連れて行ってくれた。ニャットさんのバイクの後ろに乗って走ること約30分。道の両側に立つ建物の背の高さが徐々に低くなったころ、幹線道路を折れて小道に入った。ここは、サイゴンの郊外。まだジャングルのような草木が、生えている土地に、家がまばらに立っているだけである。当然のごとく道は舗装されていない。あちこちにできた水溜りを避けながら、バイクはゆっくり先に進んでいく。ロデオのようにバイクは上下に揺れた。

到着したところには、立派な美しい家が建っていた。度肝を抜かれたのは、庭に仮説テントを張って、その下で数十人の客にご馳走を振舞われていたことである。傍目からみたら、ビアガーデンのようにしか見えない。私たちは、家の内部を見学させてもらった。天井は高く、内装にも工夫が凝らされている。入ってすぐが20畳間くらいの居間になっているのだが、その一番奥が祭壇になっていて、ご祖先さまの写真が飾られていた。私たちも、仮説テントの下で、ご馳走をいただいた。どの料理も大変美味であった。同じテーブルの若いベトナム人たちは、私が日本人であると気づくとやや恥ずかしそうな顔をしたが、その後、少しずつ話しかけてきた。ベトナム人は、最初は恥じらいの表情を見せるのだが、根本的には人懐こい人たちであるようだ。私が片言のベトナム語を話すと彼らはうれしそうな顔をした。

ベトナムの民家の祭壇(写真) http://www.flickr.com/photos/26605052@N06/2974111006/