私なりの新型インフルエンザへの考え方

趣旨

数日前に豚インフルエンザについて BBC News の投書欄が怖すぎる件についてというエントリを書いた。軽い気持ちで書いたところ、わずか数日で10万以上のアクセスを集める化け物のようなエントリになってしまった。数日経って振り返ると、どうにも気分がすっきりしない。結果として人々の不安を煽ってしまったような気がするからだ。

メキシコ人医師と思しき人物の BBC News への投稿に対して私が衝撃を受けたのは本当だ。だが、上のエントリを書くとき、野次馬根性がまったくなかったかといえば、否定できない。何かの事件現場を取材する記者たちの快感の一部を味わったような気がする。衝撃的な事件が目の前で展開されていて、それを自分だけが知っているという快感。

しかし、今回の出来事に対しては、もっと理性的な対応が必要であると考える。幸い、いくつか、いいニュースも浮上してきている。このエントリでは、贖罪の意味も込めて、私なりの新型インフルエンザへの考え方をいくつかの資料に基づいてまとめたい。

WHO は今回の新型インフルエンザを豚インフルエンザ(swine flu)からインフルエンザA型(influenza A)と改名した。以下この名称を使う。

参考サイト

科学ニュースあらかると
今回の新型インフルエンザ、インフルエンザA型について精力的に記事が更新されている。科学的で冷静な態度に好感が持てる。

「インフルエンザA(H1N1)」について最低限知っておくべき情報とネット上の信頼できる情報源まとめ - GIGAZINE
公的機関の情報提供サイトへのリンクがある。

'Mild' strain
BBC News による今回のインフルエンザA型ウィルスの科学的特徴に関する解説。簡潔にまとまっている。

インフルエンザA型ウィルスの特徴

上のBBC News による'Mild' strainという記事に基づいて、インフルエンザA型ウィルスについて解説する。

インフルエンザA型ウィルスは H1N1 という種類のインフルエンザウィルスである。これはインフルエンザウィルスの表面の2つのたんぱく質(H(hemagglutinin, 赤血球凝集素), N(neuraminidase, ノイラミターゼ))に基づいた分類だ。通常の季節性のインフルエンザも H1N1 で、感染者のうち1%ほどが死亡する。*1インフルエンザA型ウィルスの毒性は通常の季節性インフルエンザと同程度と考えられる。つまりそれほど毒性は強くない、ということだ。

それに対して、恐れられている鳥インフルエンザは、H5N1 で毒性は H1N1 よりはるかに強い。これは付着する場所が、上部呼吸器ではなく、肺であるためだ。

いままで新型インフルエンザといえば、毒性の強い H5H1 が警戒されてきた。しかし、今回流行の兆しを見せているインフルエンザA型は、通常の季節性インフルエンザと同等の毒性と考えられているので、それほど深刻に考える必要はない。(それでも体力の弱い人は亡くなることがあるので、注意は当然必要だが)問題は、新型であるために、抗体を持っている人たちがまったくいないということだ。これは、感染者数が非常に多くなる可能性がある、ということを意味している。たとえ死亡率が低くても、感染者数が多ければ、死者もそれに伴って増える。この点を保健行政当局は懸念しているわけだ。

H1N1 が H5N1 と結合して、毒性が強くなる可能性は低いと考えられている。

まとめると、

  • 新型インフルエンザであるインフルエンザA型は H1N1。毒性は弱い。
  • 抗体を持った人がいないので、感染者が非常に多くなる危険はある。
  • 感染者が多くなれば、死者もそれに伴って増える。

インフルエンザによる死亡数の推移」によると、日本では季節性インフルエンザで年間1万人程度亡くなっている(併発した肺炎による死者を含む)。普通の季節性インフルエンザもそれなりに怖い病気であるということだ。新型のインフルエンザA型はこれと同じ程度の毒性である。であるから、各個人のレベルでは通常のインフルエンザと同じくらいの注意は必要だろう。

間違いがあればご指摘ください。

*1:これは上のBBC News の記事に基づく。ちょっと数字が大きい気もするが・・・おそらく、インフルエンザに併発する肺炎による死者もカウントしているのではないか。「インフルエンザによる死亡数の推移」では日本の季節性インフルエンザの死亡率は0.05%となっている