梅田望夫氏をめぐる騒動について

最近、梅田望夫氏がネットで何を言っても叩かれる、という現象が目立っている。いちばん最近は、梅田氏の「オープンソース」という用語の使い方がおかしいんじゃないかという批判。あまりに多くの人が発言しているんで、いちいちソースのリンクは出さないけど・・・。この件について、私なりの感想を書いてみる。

一言で言うと、「なんでみんな騒いでいるのかわからん」という感じかな。確かに梅田さんはいまは技術者じゃないから、こまかい部分で事実と違うことは言っているかもしれない。だけど、彼の発言を自分なりに考えてみるに、大きな分脈のなかでふとつぶやいたいくつかの言葉に過ぎないんじゃないかな。つまり、たいして重要じゃないということ。ところが、彼の発言の大きな分脈を無視して、言葉尻を攻撃している人が多すぎる。私には、単に彼が嫌いで叩いているようにしか見えないのだが、その憎悪の源についても私は理解できない。

ひょっとしたら梅田さんがアメリカ・シリコンバレーに住んでいることと関係があるのかもしれない。梅田叩きに奔走する日本人たちの心の奥底に「やっぱりアメリカには勝てねーや」というアメリカやシリコンバレーに対する劣等感があるのかもしれない。かれが「ベトナムサイゴン在住(笑)」なら、「ふーん」という感じでみんなスルーしてたんじゃないか。

カナダに以前4年間住んで、細々とプログラマーをやっていた身からすると、梅田氏の英語圏と日本語圏の文化の違いについての指摘は、しごくもっともで、英語圏在住のまともな日本人ならだいたい同意するんじゃないかな。

そもそもみんな英語圏の内情を理解してるんかな。(まあ、僕だってたいして理解してないけど(笑))梅田さんは日本語のウェブと英語のウェブの両方をかなり深く知っている稀有の日本人には間違いない。みんな英語圏のことがわからないなら、黙っていればいいのに。「へーそういうこともあるんかなー」と思っていればいいのに。比較対象の英語のウェブもきちんと理解してないのに「日本にはニコニコ動画というものがありましてー」とか口から泡を飛ばして、日本のウェブの擁護に走るって、単にコンプレックスの表れじゃないの?そこまでムキにならなくたっていいじゃん。

外国はアメリカだけじゃないよ。むしろ、これからの日本にとってより重要な外国は中国かもしれない。中国のウェブは例によってハチャメチャで言論統制が目立つけど、結構、中国人独自のサービスもがんばっているみたいよ。というわけで、世界各国いろいろやっている中で、たまたまアメリカのシリコンバレーにいた人が「英語圏のウェブはこうで、日本語圏のウェブはあーでありますな」と呟いたとたんに袋叩きにされるというのは、理解に苦しむ。いいじゃん何を言ったって。日本人たちにスルーする余裕がなくなっているのかな。

梅田さんの「英語圏の知的エリートすごすぎる」発言は、まったくその通りだと思うよ。この事実の帰結について考えている人が少なすぎるのだが。英語は世界の数多くの言語のひとつに過ぎず、ネイティブスピーカーは4億人くらいしかいない。インドとか第2言語として英語が流暢に話せる人たちを全部足しても10億人くらいか。でも英語がなぜすごいかというと、それが世界の政治経済を語るときの言語であるという点だ。国連・IMF世界銀行といった重要な国際機関のほとんどは欧米に本部を置き、そこでの公用語は事実上、英語になっている。世界の秩序は英語話者が決めているということ。日本人が日本語しか話していなければどんなに優秀な人でも、この「世界秩序を作る」というプロセスに参加できないということ。英語圏のエリートは、レトリックじゃなく本当に「明日の世界をどう作るか」ということを日々真剣に考えざるを得ないので、切磋琢磨の真剣さが違う。英語圏Twitter では、イランの大統領選挙に関する真剣な議論で盛り上がっているそのとき、日本語圏の Twitter ではお台場のガンダムが一番の話題となっていたのが、象徴的だ。

こう考えると、たしかに、日本語圏で英語圏と同じ知的切磋琢磨をやるのは難しいのかもね。梅田氏も半分わかってて、やっぱりダメだったかと思い、「残念」ということになったのかもしれない。しかし、このままネットで知的エリートが輩出されず、英語の話せる日本人も少ないということになれば、「世界秩序を作っていく」という作業に日本人が参加する部分が本当に少なくなってしまう。言ってみれば、日本人は、英語圏の人々に政治経済的には管理される民族になりますがよろしいでしょうか、ということなのかも。梅田氏はそれを望んでいないのだろうが、彼に反発する人たちは、英語圏の人たちに難しい話は任せて、自分たちは「サブカルチャー」に浸りながら、楽しく生きていきたいと考えているといったら言い過ぎだろうか。

正直、これも悪い取引ではないのかもしれない。日本語圏はひたすらサブカルチャーを掘り下げ、開拓発展させて、この面で世界中のオタクたちの尊敬を集めるリーダーとなる。それでお金も稼げたらなおさらいうことなし。

なんか書いているうちに結論が変わってきた(笑)。

中国の台頭は、21世紀前半の最大のイベントだけど、世界の政治経済の枠組みが英語で作られていくという現実を変えるとは思えない。だから、そういう世界に飛び込みたい人は日本人であれ何人であれ、英語圏で博士号でも取って、英語話者として世界の知的エリートのコミュニティに突入していけばいい。日本語は、日本列島で話されるローカル言語として、独自の文化(とくにサブカルチャー)を育み、世界の文化の多様性に貢献すればいい。

だから結論は単純で、もしあなたが「世界を動かす」ことに関心があるなら、英語を死ぬほど勉強して英語圏でがんばりましょう。日本語しか知らないのなら、それはあきらめて、日本独自のものを伸ばすことに注力しましょう、ということかな。まあ別に日本人が無理に世界の枠組みを作らなくてもいいしね。多少、日本にとって不利なことはあるかもしれないけど・・・。