NPO(非営利団体)としての日本企業

終身雇用はなぜなくならないか - Chikirinの日記」に次のようなブクマをつけたところはてなスターが20個もついた。同じように感じている人がそんなにも多いのか。

確かに解雇規制は言い訳臭い。日本企業は利益を出すのが目的じゃなくて、実は、単に存続することが目的の NPO なんじゃないか、と最近感じてる。

自分でも書いていて、冗談なのか冗談じゃないのかわからなくなった。

いま USCPA財務会計の勉強をしている。アメリカの SFAC 4, Objectives of Financial Reporting by Nonbusiness Organizations という会計基準NPO の定義が載っている。それを簡略化すると以下の通り。

  1. 寄付を多く受け取っていること
  2. 利益を出す以外の活動を多く行っていること
  3. 所有者が存在しないこと(売買できないということ)

現在の日本企業は利益率が非常に低いことで知られている。ほとんど上の(2)が当てはまるレベルではないだろうか。日本企業の売買は、極端に困難である。M&A はタブー視されている。したがって(3)が当てはまる。(1)はやや苦しいが、あえて言えば、従業員のサービス残業や有給返上など、寄付に相当するかもしれない。というわけで、日本企業の多くは、形式上営利団体でありながら、アメリ会計基準NPO の基準を満たしてしまうのである!

FASB(アメリカの会計基準を作っている組織)は、また NPO 会計の目的について次にように述べている。

  • 組織が生み出すサービス、およびそのサービスの供給を継続する能力について、部外者が判断しやすくすること

つまり、営利企業のおいては、財務会計の目的は、会社の利益を上げる能力を部外者(特に投資家・債権者)にとって判断しやすくするためだった。一方で、非営利企業は、利益という単一の目標がないため、むしろ「何をやっているか」「その活動が今後も継続していけるか」が問題になる。日本企業は自分のやっている事業に執着を持っており、赤字でも簡単に整理しない。人員も整理しない。あたかも、企業活動を続けること自体が目標であるかのようであり、会社の本来の目標である利益は二の次とでもいいたいかのようである。こういうところもいかにも NPO っぽい。

ところで USCPA財務会計のという科目の試験においては、NPO 会計が配点の10%を占めていて、アメリカにおける NPO が占める重要な地位を示唆している。実際アメリカには United Way, Boys Scout, YMCA など社会的に大きな影響力をもつ NPO が多数活動している。

アメリカ経済というと市場原理主義の権化だと批判する日本人は多い。たしかにニューヨークの投資銀行など見ると、まったくそのような印象を受ける。だが、忘れてはならないのは、アメリカには、草の根的な NPO が多数存在して、そうした世知辛い市場主義を補完しているという現実だ。市場はなるほど効率的ではあるが、生身の人間にはつらすぎる。だから、利益を度外視して、「社会貢献」を目指す団体が必要なのだ。

ここから先は私の仮説だが、日本の場合は、企業が営利団体NPO の2つの機能を同時に兼ね備えているのかもしれない。日本企業は利益を生み出す道具であると同時に、一定の財サービスを社会に提供し、かつ、従業員に雇用とコミュニティを与える場でもある。こう考えると、金融などの手段を通じて、利益を貪欲に追求する連中が「虚業」と罵られ、日本企業の経営者たちに評判が悪いのも理解できる。また、日本では本家 NPO が特殊な「プロ市民」の巣窟になってしまい、いまひとつ社会的評価が高くないという事情も理解しやすくなる。

普通に考えたら、アメリカのように営利団体NPO は別々にしておいたほうが、わかりやすいと思うんだけどなあ・・・。実際、いまの日本企業の苦しみは、この営利性と非営利性を兼ね備えるという矛盾から来るものように思える。やはり企業は、営利を追求するもの、と割り切ってリストラを断行し、そこから苦しむ人が出たら、NPO が助け船を出す、という役割分担が健全のように思うのだが、どうだろうか。