終身雇用という縛りが生む奇形的組織

id:JavaBlack 氏 なら「日本の IT 業界もまったく同じだ!」と叫ぶだろう。他の分野でも「私のいる業界とまったく同じだ!」という叫びがいまにも聞こえてきそうである。

優秀な技術者が「無能化」していく悲劇 日本半導体が陥った「組織のジレンマ」とは JBpress(日本ビジネスプレス)

なぜこうなるのか?日本で働いた経験のある人なら、答えはもうわかっているだろう。それは、日本企業(とくに大企業)が従業員を切ることができないからだ。本当ならば、外国企業がやっているように、優秀な管理職・経営者は外から高給で連れてくればいい。彼らが組織を立て直せるなら、簡単に数億円の利益を押し上げることができる。たとえ年棒1億円払ってもお釣りが来る。

企業は利益を上げるための器である。無能な中高年の首を切り、優秀な技術者・管理職・経営者を外から連れてきて、要職につけることが、企業の利益を押し上げ、純資産を増やすならば、なぜ企業はそうしないか?それは、日本でコーポレートガバナンスが働いていないからだ。経営陣が従業員たちによって完全に乗っ取られていて、株主の意見が通らなくなっているからだ。

日本企業は、従業員たちによるギルドのようになってしまっている。既存の従業員が、どんなに無能でも優先され、新しい人間を外からつれてきて、要職につけることを妨げる。勇気を出して、無能な人間を切って、優秀な人を外から連れてこようとしても、社会から「従業員の首を切るのか人でなし」と罵られ、やっとの思いで連れてきた人も、他の従業員の嫉妬から、中途半端な地位にしかつけられない。

日本社会が停滞している根本的な原因は、人材の流れが滞っていることにある。能力の高い人がふさわしい地位にいない。政治でも経済でも同じだ。どうやったら人材が流動化するのかは私にも明確な答えはない。確実なのは、日本企業の内部から自発的な改革は起きないだろうということだけだ。おそらくは、非効率的な経営が市場から罰せられる形で、トヨタのような磐石の大企業の経営が傾き、下請け企業における解雇が日常化するときまで、待たなければならないのかもしれない。

私は、マクロ経済政策(財政・金融)で日本経済が浮上するという考え方を普段から疑わしく思っている。「合成の誤謬」だの「乗数効果」だの、マクロ経済には不思議な話は多いけれども、基本的にはすべて短期の効果だ。長期的には、自らの生産性に比例した所得を得るだけの、きわめてあたりまえの話だ。魔法なんてない。日本経済がふたたび浮上するためには、日本企業の生産性=経営効率が上がらなければならない。その着実な兆候は、日本企業における人事政策の変化だろう。

私は、IT 業界に長くいて、エンジニアたちの生産性が人によって数百倍も違うのを身をもって体験してきた。たとえ25歳でもきわめて優秀なひとがいる。こうした25歳を従業員1万人以上の大企業が技術部長に任命し、大きな権限を与えることができるようになったら、日本企業は本当に変わったといえるかもしれない。いままでの日本企業で冷遇されていた人たち(40歳以下の若い人たち、女性、外国人、転職者、博士号取得者等々)が、群がり湧いて出るように、大企業で部長・取締役・社長などの要職に就いて、彼らの名において、企業を動かしはじめたら、日本経済は復活の兆しがあると言えるだろう。実際には、そういう大改革が始まって、実際に日本経済が上向くには、さらに5年ほどの時間が必要だろうけれども。

逆に言えば、こういう人事的な変化がないかぎり、いくら政府が財政出動しようが、紙幣を刷ろうが、日本経済の先行きは暗いということである。私は、実のところあまり未来を楽観してはいない。だから優秀な若い人たちに、自分が成長できる環境を求めて、日本企業以外の場所で働くことを勧めているのだ。「泥のように10年働いて」その先に希望がなかったら、悲しいじゃない?