日本に「シンガポール」を作ろう

日本に道州制を導入しようという話が出て何年経過したのだろう。推進論者の大前研一氏などいまだに意気軒昂だが、近い将来に実施される見込みのない実りのない話だ。

結局のところ、この国は現状維持を望む人が多いのだ。現状維持を望んでいる人々が多数派であるなら、どうして制度をいじる必要があるだろうか。一部の若者が騒いだところで、それより数が多い中高年や老人は現状に満足しているのだから、ガラパゴスだろうが鎖国だろうが、好きにさせてあげるのが一番だ。

好きにさせてあげるのだから、こちらにも一つくらいわがままを許してくれてもいいだろう。既得権益には何一つ接触しないので、疑り深い老人たちも何もいわないだろうし。

日本にシンガポールを作るのだ。

場所は、東京湾を埋め立てて作る人工島である。お台場から千葉市にかけての 15 x 15 = 225 平方キロ程度の面積があれば十分だろう。日本の土木技術をもってすれば朝飯前のはずだ。1平方キロあたり、1万人住むとして、225万人住める。2万人/平方キロくらいまでは詰め込めるから450万人くらいまでは行けるだろう。いざとなったら、さらに埋め立てればいいし、千葉県の一部も取り込んでしまえばいい。その名も新東京市(通称・ネオ東京)。

ここに、日本人と外国人が調和して生きる都市をつくる。外国人の力を経済活力として生かすことに定評のあるシンガポール政府の高官を招聘し、初代市長になってもらえばいいだろう。この都市は、日本国憲法を尊重しつつも、日本とは別の法体系を持ち、中国・香港風の1国2制度を採る。というわけで、香港政府のお役人も招聘して、制度設計に参加してもらう。1国2制度であるので、日本と新東京市を行き来するときには、パスポートが必要である。

外国人に対しては、現在、英語圏で採用されているポイント制の入国審査を行い、優秀な外国人には積極的に永住権を与える。インド人と中国人はなかなか英語圏に移民させてもらえないので、ここらへんの優秀な人たちが狙い目だろう。行政手続きは、英語と日本語の完全なバイリンガルで行える。法人税所得税の料率は非常に低く設定する。その他の税制も徹底的に簡素なものを白紙から作りあげる。土地が狭いので、付加価値の高い金融と IT を中心に世界中の企業を積極的に誘致する。大企業を誘致するとともに、シリコンバレー風の革新的な起業風土も醸成する。ここらへんはシリコンバレーの人たちに来てもらっていろいろ教えてもらおう。世界中の有名大学の分校を作ってもらうのもいいかもしれない。

東京市は低福祉の経済効率優先都市にする。セーフティネットが欲しいなら、バラマキ大好きの古きよき日本に帰ればいい。そして一人当たり GDP 10万ドルを目指す。新東京市誕生後、10年後に人口が450万人に達したとして、そのとき一人当たり GDP が10万ドルなら、GDP は4500億ドル。租税負担率を 10% として、新東京市の税収は 450 億ドル。この都市は基本的に IT を駆使して徹底的に効率的に経営されるので、行政費用はほとんどかからない。公務員の数は人口の1000分1として、4500人。一人あたり10万ドル給料を払っても、4億5千万ドルにしかならない(いま米ドル表示してるけど、実際には新東京市は独自通貨を持った方がいいだろう。新東京円?)。この財政黒字の一部を日本の財政赤字の足しにするのもいいだろう。

週末には、裕福な新東京市の住人が、旧東京市街に買い物や食事に来て大金を落としていく。こうして旧日本にも大きな経済波及効果があるだろう。

こうして、革新的な精神を持つ人たちはみな新東京市に集まり、世界中から集まった優秀な人たちとともに思う存分新しいチャレンジを続ける。伝統と慣習の中で、十年一日の変わらない生活を好む保守的な人たちは、旧日本に残る。どちらもハッピーになれるわけだから、なかなかよい解決方法だと思うのだが、どうだろうか。

・・・という夢を見た。寝苦しいベトナムの熱帯夜に。

でも、こんな夢みたいな話を本気で考えている人がいる。アメリカの経済学者ポール・ローマー(Paul Romer)である。彼が主導する チャーターシティ(Charter Cities)という運動は「世界中に香港を作る!」がキャッチフレーズだ。彼が念頭に置いているのはアフリカのような行政が腐敗して機能していない場所に、法と制度に関してノウハウを持つ先進国が契約を結んでチャーターシティと呼ばれる人工都市を作り、経済成長のための社会的基盤を用意することだ。そこで、生産的な生き方を学び、成功した人たちが、生まれ故郷に戻って、残りの土地に成功を伝播していけるのではないか、というアイディアだ。

彼が「内部からの変化の試みは常にデッドロックと既得権者の抵抗に終わる」(attempts at change from within regularly end in deadlock and persistence of the status quo)と言うのを聞くと、日本にもチャーターシティが必要なのではないか、と思わずにはいられない。

P.S.

ポール・ローマーが TED Talks に出演しているビデオがかなり好きだ。彼は偉い経済学者なのに、新しいことに挑戦している姿はすばらしい。