福島第一原発の今後

大前研一氏は、現在は評論家・実業家であるが、MIT で原子力工学の博士号を取得し、帰国後、日立製作所高速増殖炉を設計していた過去がある。

彼が昨日行った講演は多くの人たちに知られるべきだと思うので紹介する。

地震発生から1週間 福島原発事故の現状と今後(大前研一ライブ579)

東北地方の復興ビジョンも興味深いのだが、とくに関心をひくのは福島第一原発についての解説。

賢すぎる。とくに46分あたりからの、今後の展望部分は圧巻。ああ、日本がこんな賢いリーダーを持ち得たら…。日本は現場が賢くリーダーが愚かというのは避けられない運命なのか。政府・東電・原子力保安院などの右往左往を見ていると暗澹たる気持ちになる。

大前氏がいみじくも正しく指摘していたように、福島第一原発再臨界等、いま以上状態が悪くなることはなくても、いまも放出されつづけている放射性物質を完全に止めるまでは、かなりの長期戦になりそうだ。

原発由来の放射線には2種類あって、一つは原子炉から直接照射されるもの。これは見通しのよい上空なら問題になっても、遮るものの多い地上ではあまり問題にならない。もう一つは放射性物質が塵として風に運ばれて空気中に浮遊し、そこから照射されるもの。これは原発から離れた場所の線量を上げうる。

放射線量を減らすには建屋に覆いをかぶせなければならないが、それは応急の冷却体制を作った後になる。原発からの放射性物質の流出を止めないと、周辺の土地の放射線量が減らない。それまで住民は避難を続けなければならない。戻って再び住めるようになるまでは、まだしばらく時間がかかるのではないか…。残念だが短期収束は難しいという覚悟を決めなければならないのかもしれない。

大前氏のいうことが正しければ、建屋全体に覆いをするまで、最低3ヶ月、安定した手段での注水・冷却に3-5年を要する。そして最終的に福島第一原発は、コンクリートで固めて、周囲の汚染地域を含めて、半永久的に封印されることになる。

福島原発問題は、今後も長期間、政府に重くのしかかってきそうだ。東電は巨大な賠償責任を負いうるが、彼らは天災ということにして逃げる腹づもりかもしれない。いずれにしろ政府が相当の出費を強いられることになるだろう。

今後の電力の需給バランスを取る方法についても「計画停電など愚の骨頂」と切って捨てる。重要なのは節電そのものではなく、消費電力のピークを抑えることであり、そのために、

  • サマータイム導入
  • 休日の分散化(電力消費は、平日で高く休日は低いので)
  • 夏の甲子園中止(夏の14時-16時に電力消費が顕著に増える原因を断つ)
  • 電力料金の引き上げ(大口需要家の料金引き上げ/節電した人には褒美として電力単価を上げず、過去より電力を多く使った人には罰として割増単価を課金)

などの政策を実施すべきだと提言している。

非常に分かりやすい説明なので一見をお勧めする。

大前氏は民主党に実際に連絡し、必要があれば外国に対して今回の事故を説明する政府のスポークスマンを引き受けてよいと名乗り出ている。政府は、原子力工学に詳しく、かつ政治経済に精通している大前研一氏を何らかの役職に登用すべきではないだろうか。彼なら、現在の混乱した日本の舵取りを任せうる人物ではないかと、このビデオを見て感じた。