太陽光発電+合成石油の可能性(その3)

前々回、前回

太陽光発電+合成石油の可能性(その1)
太陽光発電+合成石油の可能性(その2)

太陽光発電のコストが急速に化石燃料発電のコストに迫ってきつつある中、化石燃料の価格が上がり続けている現状をお伝えした。

今回は、太陽光発電再生可能エネルギー)のエネルギー貯蔵方法としての炭化水素の可能性について考える。

合成石油の歴史

石油は、炭素と水素が結合した炭化水素と呼ばれる物質の一つである。他にも天然ガス炭化水素である(石炭も炭化水素といえるが、炭素の成分が多い)。

石油を始めとする多くの炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ法で、石炭や天然ガスから合成(改質)が可能である。第二次世界大戦中のドイツや、アパルトヘイト下の南アフリカで、石炭からこの手法を用いて、石油が盛んに製造された(この両者の共通点として、国際的に孤立して石油に輸入が難しかったという背景がある)。天然ガスからも石油が作れることが分かっている(この技術を GTL とよぶ)。

参考:GTL(人造石油) - Wikipedia

再生可能エネルギーから石油を作る

実は、フィッシャー・トロプシュ法で炭化水素を生成するとき、原料となるのは、石炭や天然ガスだけではない。地上にふんだんにあり、最近は温室効果ガスとして悪名高い二酸化炭素(CO2)。これと水と電気エネルギーさえあれば、任意の炭化水素が合成可能なのである。電気で水を電気分解して、水素を作る。それと二酸化炭素を反応させることで、炭化水素が作れるのである。

この方式のメリットは、炭化水素の生産時に二酸化炭素を吸収し、消費時に同量の二酸化炭素を放出するので、全体として、大気中の二酸化炭素を増やさないことだ。こうしたエネルギー源をカーボンニュートラルという。またこうした二酸化炭素と水から直接合成した炭化水素燃料には、天然ものと違って、硫黄分が含まれず、排気ガスが相対的にクリーンであると言われる。

すでに動き出しているベンチャー企業もある。

アイスランドCarbon Recycling International社は、地熱発電を利用して、すでに年間500万リットルのメタノールを生産する設備を備えている。

ドイツの Solar Fuel 社は、再生可能エネルギーを利用して、メタンガスを生成することを目指す。現在、25kW の実証実験中で、エネルギー変換効率は40%程度。2013年からは、6MW 効率53%の実証実験を開始するとのこと。 メタンは、天然ガスの主成分であり、これから石油が作れることはすでに実証されている。

参考:欧州の電力貯蔵技術(再生可能エネルギー電力のガス・燃料化)

米国のSyntroleum社は、バイオマスから合成石油を作っている。現在、米国国防省は、バイオ燃料の導入を進めており、Syntroleum 社には、米国国防省への納品実績もある(米国国防省は現在、バイオ燃料への切り替えを進めている(PDF))。

このように技術的には、それほど大きな問題はなく、石油を合成することができるのだ。

問題はコスト

私たちは、石油に極度に依存した生活を送っている。その石油がまもなく枯渇するとすれば、現代にとって大きな脅威といえる。だが、上に見たように原理的に石油は合成可能である。

それでは、私たちが使う石油の大部分は、合成のものではないのだろうか?それはまだ天然の石油のほうがコストが安いからである。フィッシャー・トロプシュ法で作られた炭化水素のコストを、必死に調べてみたが、残念ながら、よくわからなかった。やはりこれは企業秘密に属するものである以上、なかなか表には出てこないのだろう。どうやら現在はまだ、かなりコストが高いようである。

ただし、これから石油価格はどんどん上昇していくだろう。「GTL/CTL(合成石油)の生産コストは1バーレル30ドル、販売価格50ドルでないと採算に乗らない」という説もあるが、現在の原油価格は、すでに50ドルをはるかに超えている(現在1バーレル90ドル程度)。将来、再生可能エネルギーのコストが、天然ガスや石炭よりはるかに安くなれば、再生可能エネルギーから作られた合成石油が、天然ものより安くなる可能性が出てくる(これは過去の再エネコスト下落速度から見て決して不可能ではない)。

これは、事実上、石油価格に上限を与えることになる。天然の石油価格が、極端に高くなれば、合成石油への需要が爆発的に増えるからだ。最初は、天然ガスや石炭を液化する形で合成石油が供給されていくだろうが、それが次第に、再生可能エネルギー由来のものに置き換わっていく可能性は十分ある。

再生可能エネルギーは、出力が安定しないから使えない」と言われるが、たとえ出力が不安定であっても、石油を合成することによってエネルギー貯蔵することが、原理的に可能なのだ。当然、石油を中心とした文明はすでに存在しているわけだから、こうして私たちは文明を持続可能なものにすることができる。

でも本命は二次電池だよね

…とここまで書いておいて、ちゃぶ台返しするようだがw、理想をいえば電気はやはり電池に貯蔵するのが便利だし、エネルギー効率もよい。いまは、貯蔵電力量当たりのコストが高かったり、安全性に問題があったりと、大規模な二次電池施設はあまりないけれども、将来的にはもっと安価で安全で扱いやすい電池が出てくると期待してよいだろう。炭化水素は便利だけれども、どうしても燃焼時に窒素酸化物(NOx)が発生するのは避けられないし、完全にクリーンとはいえないからだ。ただし、こうした安価で高性能な二次電池が登場するまでのつなぎとして、合成炭化水素技術は重要な役割を果たす可能性は十分秘めている。それに、石油が枯渇したときの最後の手段があるのだ、と知ることは、心に安らぎを与えてくれる。

結論

フィッシャー・トロプシュ法は、石油を始めとする各種炭化水素を合成可能にする確立された技術である。ただし、コスト面の問題からあまり多く使われてこなかった。だが、太陽光発電+合成石油の可能性(その1)で述べたように、太陽光発電は、圧倒的にコストが下がる可能性を秘めている。そのときには、太陽光発電で作られた電気によって、大量の石油が合成される時代がやってくるかもしれない。これは、太陽光発電の出力不安定性という問題を解決し、石油枯渇という文明の危機を乗り越えるための有力な手段になりうるだろう。