カネを「払って」労働する人々

ふつう労働はカネをもらってするものだろう。しかし、今日「カネを払って労働する人たち」がいると聞き衝撃を受けた。

う米部 〜umai-bu〜

「う米部」と書いて「うまいぶ」と読む。「無肥料・無農薬で、本当に「美味しい」お米作りを目指す農集団」だ。千葉県館山市の休耕地を借りて、ほぼ人力で復活させ、無農薬・無肥料のごく自然に近い粗放的な稲作を行っているそうだ。

この「う米部」は定期的にイベントを行う。イベント参加者、がっつり農作業を行う。この手の企画では、通常、農業体験といっても短時間に終わらせることが多いらしいのだが、「う米部」は違う。実際に、コメの収穫を目指しているので、それに必要な作業をイベント参加者は行わなければならないのだ。だが、イベント参加者に言わせるとそういう本格的なところがいいのだという。

近日行われるのは、このイベント。
う米部 ー除草隊&蛍観察隊ー 6月15日・6月16日

1泊2日。交通費・宿泊代・食事代が込みとはいえ、参加費用は13,000円と決して安くはない。上に書いたように、泥まみれの重労働を行わなければならない。それでも、参加者がいること、しかも若い女性が多いという話に衝撃を受けた。いったいどうなっているのか…?

このイベントの関係者の方の話によると、参加者の方々は真剣に農業に興味を持っている人たちが多いという。農業に興味があっても、本格的にやり始めるまで踏み切れない人たちが、それに近い本物の体験ができるというのが受けているのかもしれない。

私は、茨城県の片田舎に育った。もともとは農村地帯だったが、高度経済成長の中で工場が増えていった地域だ。私の父は、工場の管理職だったが、家の周りには田んぼが広がっていた。私の家族は、地元の農家と直接の交流はなかったが、農村特有の閉鎖的保守的な体質は肌身に感じていた。若い人たちが新しいアイディアをもって農業を始めようとするときに、最大の障害になるのは、実はこの農村の保守的な体質ではないだろうか。

だがこの農業イベントでは、そういう面倒な部分を主催団体が対応してくれていて、イベント参加者は、農作業そのものに集中できるのだろう。

それにしても、カネを払ってでも労働したいという人間の心の不思議にはただ驚嘆するばかりだった。そう考えるいろんなイベントを企画しうるし、それにおカネを払う人たちもいるだろう。いろんな体験を可能にするサービスが増えることで人々は精神的に豊かになっていくのかもしれない。

考えてみると、仕事というのは、そのコアにある仕事固有の本当に楽しい部分と、その周縁にある退屈で面倒な部分の2つから成り立っているのかもしれない。面倒な部分を取り去ってくれて、安全で楽しく、ある職業の中核的な仕事を楽しませてくれる体験サービスがあれば、カネを出す人もいるのだろう。つまり普段やっているのと全然違う種類の仕事を体験させてもらえれば、それ自体が楽しみになるのかもしれない。たとえば、きれいな服を着させてくれて、危険な客がいない「キャバクラ嬢体験サービス」とか…。恐ろしいことに有料の「プログラマー体験サービス」でさえ、ある種の人たちには需要があるのかもしれない。

人の欲望の形が無限にある以上、商売の形も無数にありうるのだ、とあらためて痛感させられた話だった。