起業を支援する「教育機関」としてのインキュベーター

今日は、代官山にある Open Network Space で行われたイベントに参加した。

Disney、Xerox、Sony Music、Evernoteなど世界3万社が利用するカスタマーサポートサービスZendesk CEOランチミートアップ!

ランチミートアップということでビザとソフトドリンク(一部のテーブルにはビールも)を飲食しながらのカジュアルな雰囲気での講演会だった。Open Network Space は通常 Open Network Lab(以下 Onlab という)に参加するスタートアップの人たちが利用するコワーキングスペースになっているらしい。

Onlab はスタートアップを支援するインキュベーター機関だ。この手の機関としては、ポール・グラハムがやっている Y Combinator が有名だが、メンタリング(開発中に困ったことの相談に乗る)と資金提供が主な機能だ。最近は日本国内に MOVIDA Japan など似たことをやっているところが増えてきたものの、米国(シリコンバレー)とのつながりでは、Onlab が一番らしい。

Onlab はときどき今日のようなイベントを行っている。

Zendesk はヘルプデスクのクラウドサービスを提供している。営業マン向けのウェブサービス Salesforce のヘルプデスク版、という感じだろうか?創業5年の社歴の若い企業だが、急成長を遂げ、すでに全世界に顧客が3万社もあるそうだ。

Zendesk CEO のミッケル・スヴェーン氏はデンマーク人。デンマークでこの事業を開始するも、最初の顧客は米国企業だった。最初から規模の小さいデンマーク市場は念頭になかったという。デンマークはスタートアップの文化がない国だそうだ。それゆえシリコンバレーへの会社移転を決意。CEO 氏の英語は若干の訛りはあるものの、きれいな英語だ。それでも、シリコンバレーに人的ネットワークがない外国人として、当地のベンチャーキャピタルから出資を受けるのは大変だったそうだ。

このCEO氏はとても気さくな人で、エクジット(最終的な投資回収方法。上場(IPO)または身売り(M&A))はどうするの?と聞いたら率直に答えてくれた。じっくり自分の会社を育てていこうというタイプのようだった。あと「デンマーク人はビール飲むの?」と尋ねたら「すごい飲む。日本人と同じ」とにっこり笑った。営業スマイルかもしれないが、やはり欧州人は米国人より実直な感じはする。

CEO 氏との質疑応答では、聴衆から流暢な英語での質問が相次いだ。米国育ちの日本人たちも多く参加しているようだった。Open Network Space に集まっている人たちは、半数以上が20代の若者たちのようだったが、意欲が高くて、実に頭がよさそうだった。

私はあまりにいろいろ回り道をしてきたので、ろくでもない連中と付き合ってずいぶんイライラし、ずいぶん日本批判もしたが、実は日本にはこんなに優秀な人たちがいるのだ。本来、私もこういう人たちと交わって叩きのめされるべきなのだろう。他者を批判している暇などないはずだ。

Onlab 取締役の前田紘典さんとイベントの後にお話しさせていただく。冷静沈着で非常に頭が切れる方だった。米国の大学を卒業し、米国で技術者としてビジネスをしていた方とのこと。日米の起業環境の違いについてお話を聞く。Onlab のような例外を除くとやはり日本の投資家はベンチャー精神がわかっていない連中が多いようだ。成長過程の資金が一番ショートする時期に逃げ出す投資家たちもいて問題とのことだった。

こうしたスタートアップ回りではエンジニアがつねに不足しているらしい。同じテーブルに座った人に「昔 Ruby on Rails でプログラムを書いていました」と言ったとたんに「うちに来て働きませんか?」と誘われたのには驚いた。ただ Onlab の前田さんはもっとさめた味方をしていて「優秀なエンジニアは十分な数存在する。ただ彼らを巻き込んでいけるイケてるスタートアップが少ない」とのこと。

いずれにしろ、5年前にはこういうスタートアップを支援してくれる場所は存在しなかった。メンタリングや出資までしてくれる。技術だけでなく、マネジメントやビジネスのやり方も教えてもらえる(直接教えてもらえなくても、どうやったら学べるかヒントがもらえる)。きちんとしたプロトタイプさえ作れば、国籍や年齢を問わず入ることができる。ビジネスを実地で学ぶ場所として、ある意味、高いカネを払って MBA を取るよりずっといいのではないか。

インキュベーターは、新しい時代の大学院なのかもしれない。