偽装請負のどこが悪い?


世間の動きに疎い私だが、どうやら巷では偽装請負の話が盛り上がっているようだ。偽装請負とは、請負という形で仕事を引き受けながらも、実質は社員を客先に派遣しているだけ、という状態を指している。つまり、

[例1]
1. A 社(発注者) は B 社(受注者)にソフトウェアの発注を行う。
2. B 社は、自社の社員 C 氏を A 社に送り込む。
3. C 氏 は A 社の社員 D 氏の直接の指揮命令を受けて働く


という状態だ。これでは B 社はソフトウェアを作っているとはいえず、単に C 氏を A 社に派遣するだけの派遣業者ではないか、という指摘だ。「請負といいつつ実質派遣」という部分が「偽装」の文字がつく理由である。上の例では、B 社は元請の受注者だが、IT 業界では、実際は発注者と受注者の間より、元請けと下請けの企業の間でよく行われる。


ちなみに私は、現在、

[例2]
1. T 社(元請会社)は W 社(下請会社)にソフトウェア業務の一部を委託する。
2. W 社はソフトカルチャー(≠ W 社)社員である私を T 社に送り込む。
3. T 社は A 社の社員 X 氏の直接の命令指揮を受けて働く。


という構造の中で働いている。W 社は個人事業主への仕事の斡旋を売りにしている会社である。上のピュアな偽装請負の構図と違うのは、2. において私が W 社 の社員ではないという点だ。私自身は、いつまでも客先常駐の仕事をするつもりはないけれども、W 社は私にとって現在のところ営業支援をしてくれる存在だと好感をもって受け入れている。もちろん W 社が T社 から受け取った金額から一定のマージンを差し引いて、私に報酬(ソフトカルチャーの売り上げになる)が支払われることになるが、いわゆる「ピンハネ」ではなく W社による営業支援に対する当然の対価だと考えている。だから、私としてはこのビジネスモデルになんら疑問も感じていない。たとえその構造が限りなく偽装請負に近くても。


それでは、最初の[例1]における偽装請負だが、これは本当に悪いのだろうか?私は、どこがどう悪いのかよくわからない。頭が悪いのかもしれないので、誰か教えてほしい。まあ、実質している仕事は派遣業だから、ちゃんと派遣業の登録をしろよ、ということなのかしら?私は、[例1] の B 社のような会社がただ社員を搾取しているとは思わない。彼らは、人材を社内にプールしておいて、大きな案件に対しては急速に人材を集めることができるという動員力を営業資源にしているだけのことだ。B 社の社員 C 氏が自分への報酬が B 社によってピンハネされていると考えるなら、独立して自分で営業して、A 社と直接契約すればいいだけのことだ。ただ、A 社が C 氏と直接契約を結ぶとは限らない。もし A 社が B 社の動員力を重視して、契約単価を決めているのなら、個人である C 氏には動員力はない(=スケーラブルではない)ので、契約を結べたとしても、そのぶん単価が下がるのは避けられない。


結局 [例1] で C 氏は何を望んでいるのだろう? A 社の正社員になりたいのだろうか?確かに C 氏は B 社の社員である以上、B 社の命令に背くことはできず、しかし、現実に働く場所は得意先であるために、弱い立場で働かざるを得ないというのは問題かもしれない。私の場合は、収入の確約はないが、仕事は自分ですべて選べるので納得づくで現場に向かうことができる。それは、私にとっては、お金では図れない大きな価値である。


もしこれが製造業で C 氏が工場の流れ作業に従事する一工員とかいう立場なら、ちょっと話は違うかもしれない。だが、IT の仕事は高度な知識が必要な分野であり、C 氏はスキルを上げることによって、自分を高く売り込めるはずだ。そういう立場の人たちを法律で保護する必要ってあるのだろうか?(まあ、IT といってもほとんど事務職の単純作業みたいな仕事もあるじゃないか、という声も聞こえてくるが)


「C 氏が A 社の命令指揮下で働くのなら、C 氏は A 社と直接なんらかの契約を結ぶべき」という意見もあるようだ。しかし、IT 技術者はプロジェクトごと現場を転々とするのが普通であり、A 社としても、下請けから派遣されてくる大勢の技術者ひとりひとりと契約を結ぶのは、事務コストが高くつく。だから、なかなか直接契約は普及しないのだろう。(もし偽装請負禁止が厳密に指導された場合、こういう直接契約の事務や売り上げ(or給料)回収を代行する業者が台頭するかもしれない(W 社はこれに近いと思う))。技術者自身が積極的に営業活動をしないかぎり、実態はいまとたいして変わらないだろうな。技術者自身も甘えてるんじゃないかな。営業担当者だって、案件をとって、売り上げを回収するのは大変なはず。そういう努力への対価は決して「ピンハネ」ではない、と思うんだが。