ハッカーと画家

ネットのさまざなまな場所で話題に上がっていた「ハッカーと画家」。何か芸術関係の本かと思いきや、ハッカーによるハッカーのための本であった。著者のポール・グラハムは「天才 LISP プログラマにしてベンチャー企業経営者」であるそうだ。

ハッカー(=敏腕プログラマ)の視点から、社会や経済について語っている。「第0章 メイド・イン・USA」の

アメリカ人が車を作るのが下手なのとソフトウェアを書くのが得意なのは、同じ理由による。

という文が気に入った。アメリカ人は、雑でも手早いのが好きだが、その性質がソフトウェア作りには利点となるということらしい。これはそのまま、

日本人がソフトウェアを書くのが下手なのと車を作るのが得意なのは、同じ理由による。

と言い換えられるではないか。

第1章「どうしてオタクはもてないか」では、ティーンの子供たちは、同級生からの人気獲得を至上目標にがんばっているのに、オタクは知的な追究を優先してしまうので、いじめられると言う。オタクが学校でいかに不当な迫害を受けるかをとうとうと語りつづけている。本当に中学時代はもてなくて悔しかったらしい。確かに私も(オタクかどうかは微妙だが)中学・高校時代がいちばん人間関係では苦労した暗黒時代だった。

第2章は「ハッカーと画家」。書名と同じタイトルの章だけあって、奥深い。プログラマに似ているのは科学者ではなく、画家であるという。両者の共通点は、よいものを創るということだ。「計算機科学という用語がどうにも好きになれない」 同感だ。私も Computer Science ってなんだよって思っていた。数学的な部分はあるけれど、それとプログラムを書くことは直接の関係はない。

著者は、自分の頭で考え、自分の言葉だけを使って書いている。それがよく現れているのが第3章「口にできないこと」で社会的タブーについて考え、第4章「天邪鬼の価値」でハッカーがルールを破り服従を嫌うのはなぜか論じているところだ。やさしい言葉で書かれているが、ここまで率直な文章ななかなかお目にかかれない。

技術的な腕前はともかく、私の考え方は実にハッカー的であることを改めて確認した。ハッカー万歳。実に面白く、かつ深く考えさせられる本だ。おすすめ。