日本の経済の現状に対する個人的な認識

私は、今年の初めから、日本経済に危機感を感じまくっているわけだが、私の認識する日本経済の現況を簡単にスケッチしたい。普通、経済学者や評論家は適当なグラフやら表やら持ち出しくるわけだが、あえてそういった客観的な数字は使わず、あくまでも私の主観を述べて行きたい。私の考えのすべてが当たっているはずもないが、少なくとも思考の癖からなにか面白い発見があるかもしれない。ここには、何も客観的な論拠はないので、特に私という人間に興味をもたないかたがたは華麗にスルーしていただきたい。

日本経済は、基本的に製造業(自動車・電機・工作機械)が主力である。製造業は、輸出産業であり、外貨の稼ぎ手であるだけでなく、関連会社や下請け会社を傘下に持ち、大きな雇用を生み出している。(トヨタの連結従業員数約30万人、日立製作所が約40万人) 輸出産業であることからもわかるように、国際的比較では製造業は効率的なセクターであり、日本の富の源泉である。

しかし、最近は新興国(中国・インド等)の台頭もあり、製造業においては特に普及品の分野で競争が激化し、製造業の利益率は長期低下傾向にある。

その一方で、アメリカの IT 企業(マイクロソフト・グーグル等)に見られるような21世紀型の新産業は日本ではあまり育っていない。

日本には数多く政府の規制や補助金で守られた産業があり、効率性が低い。農業や公共事業分野の建設業がその代表例である。これらの多くは地方における主産業である。小泉政権を通じて、行政改革のため公共事業が大幅に減らされた。そのため、地方経済は疲弊の度を増している。地方の住民や自治体は、公共事業増をもとめて、政治力に訴えようとする動きがある。

私の危機意識は、

(1) 日本の製造業の先行きの暗さ
(2) 新しい産業が生まれないこと
(3) 地方の先行きの暗さ

から発生しているようだ。各々について述べよう。

(1)

日本経済の機関車である製造業が、実質的に経済の命運を握っている。つまり製造業が十分利益を稼げていれば、日本経済は安泰であるし、そうでなければ危ういということだ。

日本の製造業は危ういと考える理由は、製造業自体が世界経済の大きな潮流のなかで、すでにもっとも高い付加価値を稼げる種類の産業でなくなっているのではないか、という思いからきている。
製品の IT 化が進行しており、見た目は機械でも中身は実質コンピュータという製品が増えているように思われる。かつては機械的制御(機械式の時計のイメージ)によって機能を実現していたのが、いまは半導体チップとソフトウェアで制御していることが増えているのではないか?たとえば、80年代のビデオデッキは 100 % 機械的制御で作られている製品であった。しかし現在同じ機能をもつ HDD レコーダーは、完全に機械の皮をかぶったコンピュータにすぎない。自動車でも、機械的制御が半導体を用いた電子制御に置き換えられつつあるらしい。日本企業が得意なのは、部品数が多くなりやすい機械的制御の部分を、企業の中の部門間や下請け会社との緊密な協力関係のなかで、高い品質の機械に組み立てていく点にあるのではないか?しかし、電子制御が導入されるとこの結合の妙ともいえるノウハウは、半導体チップのなかのソフトウェアに移行する。そして、しばしばモジュール化して、部品が広く市場に流通し、最終組み立て者が簡単に組み立てて消費者に販売する、という形になりやすい。ちょうど AT 互換機と呼ばれる Windows 系のパソコンを思い浮かべればいい。あれは作った人ならわかると思うが、本当に簡単で、だれでもすぐできるようなる。

私は、正直、生産財系の製造業(工作機械とか)の現状はよくわからないのだが、消費財系の製造業についていえば、日本の総合家電メーカーの世界的な存在感は薄れてきているのはほぼまちがいない。それは、総合家電メーカーは、機械的制御=>電子的制御、すりあわせ型生産 => モジュール化生産という世界の製造業の潮流のなかで、まっさきに自分の得意さを見失うしかないポジションに位置していたからだ。

いま、日本で唯一、気を吐いているのは、トヨタをはじめとする自動車メーカーたちだが、これにも死角がないとはいえない。特に重大な変化となりそうなのが、電気自動車の台頭である。リチウム電池などの電池の高密度化によって、電気自動車が実用化しつつある。自動車でいちばん複雑な部品はエンジン(内燃機関)であるという。モーターははるかに単純な部品で、しかも電子制御と相性がいい。とすると、各部品がモジュール化して、最終組み立てはごく簡単、というようなパソコンと同じ道をたどる可能性は十分あるのではないか。トヨタが突然売れなくなることはないだろうが、今まで150万円で売っていた車と同じ品質の車を、たとえば中国メーカーが 50 万円で売りこんでくれば、トヨタも自分の車を大幅に値下げせざるをえないのではないか?

もし機械的制御 => 電子的制御が世界の潮流なら、日本企業がそれに乗ればいいのだが、ここにも一つ問題がある。日本企業は、ソフトウェアを作るのが苦手だ、という厳然たる事実である。個々人としては、優秀な技術者は多くいる。ただ、日本の組織は、かなしくなるほどにソフトウェア生産に向いていない。ソフトウェアの特徴は、純粋な知的産物であるがために、その生産効率は、技術者によって大きく異なるという点にある。一人の優秀な技術者が作ったソフトウェアに、凡庸な100人の技術者が力をあわせたソフトウェアが品質・性能でかなわないというのはありふれた話だ。重要なのは、優秀な技術者を見つけ出し、徹底的に大きな権限を与えることだ。しかし、日本企業では、建前は、従業員はみな同じ能力を有するという前提で、かつ年功序列的な雰囲気のなかでは、優秀な人間を抜擢することが難しい。日本企業が作るソフトウェアの品質は、大きくアメリカ企業の後塵を拝している。世界的にみれば、ごく平凡というところだ。これでは、競争力の源泉にはならない。

というわけで、日本の製造業は、いまはよくてもこの先、袋小路にはまり込む危険を十分抱えているのではないか。

(2), (3) については後で書く。