用心棒代

あるベトナム人男性から興味深い話を聞いた。

彼は、かつてサイゴンの郊外で、家族経営の小さな飲食店を営んでいた。客単価は安く、経営は楽ではなかったが、こまったことに警察(公安)に毎月「用心棒代」を差し出さなくてはならなかったという。その金額は、家賃の2割ほど。日本で言えば、月10万円の家賃のところ、毎月2万円を警察に払う感じか。それを拒否すると、毎日嫌がらせにやってきて、飯をただで食っては帰っていくという。

これは、日本のヤクザの「みかじめ料」にそっくりである。

司馬遼太郎によれば、江戸時代、幕府の治安組織の末端にいたのは、目明しとよばれる人々だった。公式の治安組織の末端は、同心と呼ばれる役人であったが、人手が足りないので、乱暴者を個人的な手先として使った。これが目明しだった。目明しは、ほとんど給料をもらっていなかったが、治安維持を担当する反面、一般市民から金品をゆすりとって自分の収入にしていた。

ベトナムの警察は、この話を思い起こさせる。

ベトナム政府の名誉のために言っておけば、こういう現状を改革しようという勢力は政府内に存在し、実際に昔より状況は改善しているという。しかし、役人が自分たちの薄給を補うために行っている構造的な汚職であるために、根絶には時間がかかると思われる。役人の立場からしてみると、これは汚職というより一種のビジネスなのであろう。おそらくは、こうして手に入れたお金もそのまま個人のポケットに入るわけではなく、その部署でプールされ、職位に応じて配分されるものと考えられる。