世界最強のブルーカラーを持つ国・日本

今朝も、在日日本人にとっては、やや暗いニュース。

ホンダ、タイから二輪車輸入 国内生産コスト高で

ホンダは2010年からタイで生産した中型二輪車を日本に輸入する。排気量50cc以下のスクーターは中国から輸入しているが、中型二輪の輸入は初めて。国内生産台数の減少で製造コストが上昇したため、日本の3倍の生産規模を持つタイからの輸入で採算を改善する。

というこで、徐々に高級品生産に関しても、日本の国内生産がおびやかされつつ姿が浮き彫りになっている。(タイ在住の id:KoshianX 氏の論評を待ちたい)

バイクと言えば、ベトナムはバイク大国であるのは周知のところ。ここでも日本ブランドは人気があるのだが、私のベトナム人の友人がちらっと気になることを言っていた。「日本ブランドのバイクは、昔のほうがよかった。いまはベトナムで生産しているから、あまり品質がよくない」と。純 "Made in Japan" 時代のほうが品質がよかったと。

約15年前、フリーターをしていたころ、私は群馬県のバス工場の生産ラインで3ヶ月間働いた(偽装請負の一員として)。班長は、よく日焼けした肌を持つたたき上げの50代の男性で、彼の仕事の手際の良さは神業のようだった。工場で働く正社員の人たちはみな実に手先が器用で優秀だったと記憶している。「ネジ一本に至るまでコスト削減はギリギリまでやった。もうこれ以上は無理だよ」とこぼしていた。

こういう人たちが、日本の製造業を支えてきた。おそらく日本のブルーカラー労働者は世界最強だと思う。のんきなタイ人やベトナム人、大雑把な中国人などとは、比較にならないほど日本のブルーカラー労働者は、細かいところに気づき、作業は正確で迅速だ。

1980年くらいまでの、日本の工場労働者たちが生き生きと工場で働いていた時代、それが日本の製造業がもっとも輝いていた時代だった。まだ日本企業の工場はすべて日本にあって、働いている人たちも全員日本人で、出稼ぎの外国人労働者なんていなかった時代。世界一優秀な日本のブルーカラーたちが丹精込めて作り上げた製品が、破竹の勢いで、世界市場を制覇していったのは当然の結果だっただろう。

それがいまはどうだろう。タイ人たちの作ったバイクが日本市場に逆輸入される始末。日本のブルーカラーたちが泣いている。いまでも日本のブルーカラーは世界一優秀だと思うのだが、いかんせん、賃金が高すぎる。5倍生産性が高くても、賃金が10倍高ければ、国際競争に勝てないのである。

日本人にとって、もっとも得意な分野は、今も昔も、この手先の器用さや几帳面さが生きる工場生産なのである。今の日本の産業界に元気がないのは、この得意技を封じられているからだろう。ブルース・リーにカンフーを使わずに戦えと言っているようなものだ。

日本人には新しい選択が迫られている。選択肢は2つある。

  1. ホワイトカラーの国に転換する。つまり、自分は手を動かすのではなく、企画力や金融力で飯を食っていく。
  2. ブルーカラーの国であり続ける。製造業を主力産業として、日本国内にも工場を残す。

いままで識者たちは、したり顔で1.を選ぶべきと言ってきた。私もそう思ってきた。そういわれて、もう20年以上が経つが、日本人のホワイトカラーの生産性は一向に上がらない。私はシステム屋なので、そのあおりをもろに食らってきた。システム・インテグレーション(SI)業界は本当に終わっている

ひょっとしたら、2.の方向で突き進むしかないのかもしれない。餅は餅屋というしね。シンガポール人みたいに、賢く頭を使って金融で儲けようとか、確かに日本人らしくないかもしれない。やはり、日本人は、超絶技巧を目も留まらぬスピードで繰り出し、魔法のようにあっという間に高品質の製品を組み立てる、みたいなほうが「らしい」気もする。

では仮に、2.を選んだとしよう。そのとき問題は、「それで飯が食えるか?」である。いまの労賃を維持したまま、同じモノを作って、同じように売るとしたら、確実に新興国の製造業との戦いに負ける。コストで勝てないからだ。なので、選択肢はさらに2つ。

  1. 労賃を下げる。下げる方法は2通りあって、(1)名目賃金の切り下げ (2)円安誘導、の2つ。(1)は政治的に難しいので、(2)がおすすめ。
  2. 労賃を維持、あるいは引き上げられるようにするため、製品価格を上げる。製品価格上げて売り続けるためには、何らかの「工夫」が必要。AppleMac + iPhone + iTunes + AppStore で儲けているようなマーケティングの仕組みを工夫する必要がある。

最初から 2. が出来たら苦労していない。出来なかったために、いまのところ 1. に近いシナリオで、直近の20年間の日本の製造業は推移してきている。2. を実現するためには、どうしたらいいか?

答えとしては、優秀なマーケターやセールスマンを外国から連れてくるしかないのではないか。これにはいろんな方法があるが、日本企業が外国人を雇うのは、たぶんうまくいかない。コテコテの日本企業は外国人をうまく使いこなせないからだ。可能性があるのは、アイディアのある外国企業とパートナー関係を組んで、日本の製品を世界中に売ってもらうこと。そこで、日本企業は生産に特化するのだ。イメージとしては iPhone の設計を担当する Apple と生産を担当する台湾メーカーの関係のような感じ。

こうやれば、自前で苦手な世界市場のマーケティングをやらず、得意な工業生産に専念することができる。ただ、それでも、製品が十分高く売れるかどうかはまだわからないのだけど・・・。