日本人が知らない日本の農業

さすが宋さん。わかっていらっしゃる。

宋文洲のメルマガの読者広場: 日本人が知らない日本の農業

実は民主党自民党も農業の本質に触れることができないのです。ここは大票田であり、皆が媚を売っています。農業問題の本質は政府の過保護と長い間に形成された利益団体の巨大さです。そこにはタブーがあり、ウソと欺瞞が作られるのです。

カロリーで食料自給率を計算するのは日本と韓国です。他の国は金額で計算します。カロリーで計算すると支出の高い野菜類はほぼゼロになります。餌を輸入している牛、豚、鶏からの製品(牛乳、肉、卵)の国産率はなんとゼロです。ばかばかしいと思いませんか。材料を輸入しているために製品も輸入品として計算するならば、Made In Japanのものがなくなります。

この飽食の時代に、食品の多様性を無視してカロリーベースで農産物を評価する愚。カロリーゼロの野菜のほうが米よりずっと高い付加価値を実現しているのに。そんなにカロリーを重視するなら、食用油でも備蓄しておいたらどうか。

例の農薬使用量ですが、2002年の”OECD,Environmental Performance Reviews:Japan”に出ています。私は覚え間違えていました。日本の農薬使用量は世界平均の3倍ではなく、OECD加盟国平均の6倍でした。下のデータをみれば分かるように日本と韓国がトップに並んでいます(耕地の単位面積)。

日本=1.5トン、韓国=1.2トン、イタリア=0.78トン、フランス=0.59トン、イギリス=0.58トン、ドイツ=0.29トン、アメリカ=0.21トン、カナダ=0.07トン、OECD平均=0.25トン。

海外産=危険、日本産=安全ではないことを示す一つのデータ。海外産だから日本産だから、ではなく食品ひとつひとつの安全性を虚心に見ていかなかなければならないのじゃないか。

今でも日本滞在中には千葉で農業をしている私ですが、農村の現場に居ないと絶対分からない実態を知っています。ここで言えるのは日本の農業を知らない人が多すぎるということです。皆、役所や利益団体が誘導したとおりの方向を見ているだけです。

それが日本のためならばいいのですが、日本の農業と将来を悪くしている訳ですから、苛立つのです。「自動車が強くなったのは国が早く保護を止めたからです」。昔この話をしてくださったのは他ではなくトヨタ自動車張富士夫会長でしたが、私が言いたいのは「農業が弱いのは国が保護しすぎたから」です。

「皆、役所や利益団体が誘導したとおりの方向を見ているだけです。」
これを強く感じる。「食糧自給率100%」は国のプロパガンダだ。中国が「チベットは中国固有の領土である」と主張するのと同じ種類のきわめて政治的な主張だ。そして、中国同様、日本国民の熱狂的な支持を得ている。なぜか?それは中国同様、国民が政府の宣伝によって洗脳されているからだ。(その片棒を閉鎖的な記者クラブに守られた日本のマスコミが担いでいる

私は、これが日本にとってきわめて大きな問題だと20年前から思ってきた。なぜなら、この農業規制政策が巨大な既得権益層を形成するからだ。そして、この既得権益層が日本の社会を変えることを妨げる。それが必要になったときにも。

輸入米には1キロあたりに実に402円もの関税がかかる。一方、ベトナムやタイのスーパーで売っているジャポニカ米は1キロ100円前後で、卸値はもっと安いはずだ。まさに懲罰的な関税であり、誰も米を輸入しようという者はいない。東京でタイ料理屋を経営している友人は、わざわざ日本国内産のタイ米を使っているそうだ。

いまや日本の単純労働者たちは、アジアの安価な労働者たちともろに競争しているのだ。5倍以上の賃金をもらっている日本の労働者たちには、きわめて強い賃金の切り下げ圧力が働いている。日本で生き残るためには、生活費を下げるしかない。そのためには、農産品の輸入を自由化して、日本の農業を効率化し、食品価格を下げることが必要になってくるはずだ。

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