久しぶりの日本航空

ホーチミン空港(タンソンニャット)に到着したのが22時。成田行きの日本航空は、少し遅れて 23:50 に搭乗だとチェックイン時に告げられた。眠かったので、出発ゲートで眠り込んでしまった。係員に起こされたのはファイナルコールが告げられていた午前0時過ぎだった。

飛行機の入り口でやたらに平身低頭な日本人係員が「たいへんお待たせしました」と頭をペコペコ下げていた。私は最後の乗客だ。待たせたのは私のほうなのに。やれやれ、これが日本だ。

日航に乗るのは何年ぶりか思い出せない。そもそも国際線では日本の航空会社は高いというイメージだったから、最初から選択肢になかった。ところが日航が破綻してから、どうやら安値攻勢を掛けているらしく、最近は一番安いことが多いのだ。それだけの理由で日航を選んだ。

飛行機はボーイング 767-300 だ。実際の機体年齢はわからないが、内装はまだ綺麗だ。すべての器具の手入れが行き届いていて、外国の航空会社のように、一部が壊れたまま放置されているようなことはない。機内全体に、こうした日本的几帳面な空気が流れていた。ああ、もう日本に帰ってきたんだな。

機内アナウンスで最初に流れる言語は日本語。機内のさまざまな案内書きもまず日本語で記され、その下に英語が併記されている。当然のことなのだが、外国の航空会社を使い続けた身にはなんか不思議な感覚だった。機内のテレビでは、日本のニュースを流している。ちょうど中国が日本を抜いて、GDP が世界第2位になったことを告げていた。

飲み物の提供が始まった。メニューにウィスキーがあるので、それを注文すると、どういう飲み方がいいか聞いてくる。ロックですか、それとも水割り?客室乗務員はどうやらベトナム人が多いようだ。名札にカタカナで名前が書いてある。日本語はほぼ完璧で、物腰は完全に日本人のそれである。教育が行き届いている。しばらくするとまたやってきて、「おかわりはどうですか?」と尋ねた。なかなかサービスがいい。そのためしたたか酔ってしまった。

普通、飛行機内は寒いことが多いのだが、この日航の室内温度は完璧だった。熱すぎず寒すぎない。日本人好みの温度である。白人にはやや暑いかもしれない。

日本文化は強烈なオーラを放っているなあ、と改めて感じた。日本流の顧客サービスは、他の国とは全く異なる。存在自体が世界の中で強烈に異質で個性的な日本。そんな国に生まれた数奇を思いながら眠りに落ちた。