さよならベトナム

この2年間、私はベトナムで自分なりの「ビジネス」を立ち上げようと努力してきた。だがベトナムでのビジネスはあきらめた。

ベトナムが好きだ。ベトナム人が好きだ。ベトナムでの生活も好きだ。ベトナム料理も好きだ。ベトナムの文化や言語も深く学んだ。

ただ、最初から難点はこの国の政府だろうと思っていた。共産党一党支配。言論統制汚職腐敗。悪い噂は最初から聞いていた。実際行ってみたら、想像以上にひどかった。

それでも私はベトナム政府をなるべく好意的に捉えようと努力してきた。だが、今年の初め、会社を設立しようとしたとき、当然のように賄賂が必要だとコンサルに言われたのには愕然とした。私は悩んだが、結局、会社を作るのはやめることにした。会社を設立しても、納税のたびに税務署に「付け届け」が必要だという話も聞いた。とにかく、当局の実際の姿勢は、法律からは推し量れず、不透明だった。

ベトナムの名誉のため言っておくと、このような話はベトナムだけではない。中国やフィリピンなど、およそ発展途上国であればどこでも、程度の差はあれ、耳にする話だ。日本人の事業家たちは、こうした腐敗の実態をどうにもならないことと、あきらめてしまっている。公の場で「いつも賄賂を払っています」とはさすがに言わないだろうけれども。

私は以前、新興国の成長力に希望を抱いていた。だが、実態として新興国の政府は腐り切っている。こんな状態で経済成長は持続可能だろうか?私は疑問に感じざるを得ない。こう言わざるを得ないのは誠に残念なことであるけれども。

新興国の国民は陽気で前向きで楽しい人たちだ。私は何らかの形で彼らとかかわりは持ち続けたいが、新興国政府と直接関わりの持つのはごめんこうむりたい。

しばらく休息したら、とりあえず日本で働き始めるつもりだ。

1年前、私は「若者よ、日本を脱出せよ」と檄文を書いた。そういう私が、こういう状態になってしまい、まったく恥ずかしい限りである。批判は甘んじる。若い人たちが外国に出て、異文化を学ぶことが人間的成長におおいに役立つという信念は変わっていない。

ただ、新興国ブームをブームで終わらせないためには、政府内部の腐敗体質をただし、法律に基づいて行政を行う法治主義を徹底させる必要があるはずだ。だが、腐敗した勢力から利権を取り上げるのは難しい(日本の原子力ロビーを見ても分かるだろう)。新興国がどうしたらまっとうに成長して行けるのか、私なりに道筋を考えて行きたい。