世界の発電の主役は石炭火力

石炭は、250年前イギリスで産業革命が起こった時から使われ続けている、古典的なエネルギー源である。蒸気機関車が姿を消し、石炭などもう使われなくなったのだろうとぼんやり思っていた。ところがとんでもない間違いだった。

日本の発電電力量比率は2008年度時点で原子力 26.0 % に対して石炭火力が 25.2 % とほぼ肩を並べる水準だったのだ。この年は前年の地震の影響で柏崎原発が止まっていたりしたので、通常は原子力はだいたい30%弱程度と考えていいだろう。石炭火力は約 25 % で日本の電力需要の 1/4 を担っている。

石炭火力は、古くさいイメージとともに、有害な窒素酸化物・硫黄酸化物や煤塵を多く出し、単位発電量あたりの CO2 排出量が他の火力に比べても高く、評判が悪かったようだ。ただ、日本はこうした有害物質の除去技術や発電の高効率化に関して優れた技術を持ち、石炭火力は近年長足の進歩を遂げている。

横浜市磯子区電源開発(J-Power)の磯子火力発電所がある。これは日本が誇る最新鋭の石炭火力発電所だということを最近知った。出力は1号機 60 万KW , 2号機 60 万 KW 合計 120 万KW で、最新鋭の原発1基に相当する。さっそく訪れてみることにした。

電話で見学を予約すると、当日、専門の広報担当とおぼしき若い女性が発電所の施設を案内してくれた。地震の直後であったり、1号機が点検中ということで、全部の見学コースは回れなかったようだが、タービンと発電装置は見学することができた。タービン室は、やや生温い程度で空調が行き届いているため夏でもそれほど暑くはないそうだ。それなりの騒音だが耳をつんざくというほどではない。実は事務所はタービン建屋の8階にあり、真下にタービンがあるのだ!(敷地が狭いためにこういうことになったらしい)それでも全然音がせず静かであり、発電所であることを忘れそうになった。

建物の色彩も美しいパステルカラーで横浜市や神奈川県から賞をもらったそうだ。最新鋭の乾式脱硝・脱硫装置により窒素酸化物や硫黄酸化物を除去。粉塵も電気式除去装置を使って大部分を吸収。乾式なので、煙突から水蒸気の湯気が立ち上らないのが不思議である。米国の石炭火力では 1KWh の発電に対して3.7g の窒素酸化物を排出するのに対して、磯子火力発電所では、わずか 0.05 g(単位は ppm だったかも?わかる人がいたら教えて)。横浜市は全国でも最も環境基準が厳しいのでそれに合わせて作ったら世界一クリーンな石炭火力発電所が出来上がったということらしい。

気になるコストだが、この磯子火力発電所自体の発電コストは「本社が取りまとめているので…」とごまかされてしまった。微妙なところなのかもしれない。ただ石炭自体のコストはだいぶ安いことになっている。

石炭のエネルギー源としての美点は、比較的安価で、埋蔵量が多く(約200年分)、産出地が世界中に分散しており、地政学的なリスクが少ないこと。実は、世界の電源別構成比においても、石炭は約40%にもなる。現代においても、石炭は発電の主役だ。というわけで、CO2 の問題にさえ目をつぶれば、人類の電力は当分安泰なのだ。

私は、人為的 CO2 が地球温暖化に寄与するという説に懐疑的な立場だ。だが、120 万KW の磯子火力発電所が一日実に1万トンもの石炭を使うと聞くと、いずれにしろこんなことはいつまでも続けていられないと思う。CO2 を削減するカギとなる発電効率の向上は、どの国にとっても重要な課題である。

実は日本の石炭火力発電の効率は世界最高クラスであり、効率の低い石炭火力を持つ諸外国に日本の技術が普及すれば、それだけで世界全体では大幅な CO2 削減を達成できる。日本の CO2 を削減するよりずっと簡単な話である。

CO2 の問題はあるにしても、原子力に比べれば石炭火力はずっと安全・安価・安定した技術である。原子力がなければ電力需要をまかなえないというのは、政府や電力会社の宣伝文句にすぎないことがわかるだろう。永遠に石炭火力を続けて行くことはできないとしても、自然エネルギーへ主役をバトンタッチするまで、向こう20年程度活躍してもらってもいいのではないだろうか。