書評「特別会計への道案内」

特別会計とは、「国または地方公共団体の官庁会計において、一般会計とは別に設けられる、独立した経理管理が行なわれる会計」のことだ。国の一般会計は、2008年度で83兆円に対して、特別会計の単純合計は369兆円。特別会計のほうがずっと大きいのに、一般会計に比べて国民の関心は低い。それゆえ、官僚たちの自由裁量が効きやすく、利権の源泉となっている。

特別会計の実態を切り込みたくても、素人向けの資料はほとんどない。膨大な数字と専門用語の前に、一般人はすごすごと退却するしかなかった。この本が現れるまでは。

特別会計への道案内

特別会計への道案内

著者の松浦武志氏は、京都大学卒業後、政策秘書試験に合格して、政策秘書として勤務。2005年より河村たかし衆議院議員(現名古屋市長)の秘書を務めた。河村たかし氏は、減税日本という地域政党を率いて、過激な活動を展開中である。財政に詳しい松浦氏が河村氏の知恵袋なのはまちがいない。

本書の前半は、特別会計の諸問題に対する批判的検討であり、後半は、各特別会計に対する評価となっている。本書にはウェブサイトも存在するが、残念ながらデザインが旧式で怪しさ満点になっている。ウェブサイトに比べると、書籍のほうはずっと堅実な内容である。

さきほど、83兆円と369兆円、という数字をあげたが、これは実際に使われる金額ではなく、会計間のお金のやり取りが重複して勘定されている。歳出純計で見ると、一般会計34兆円・特別会計178兆円となり、計212兆円が日本の本当の国家予算規模になる。歳入には保険料・手数料・負担金を含むが、これらは法律で定められた国民の負担なので、税金に準ずるものと考えてよい。特別会計の規模の大きさが理解できるだろう。

これは特別会計に限った話ではないのだが、政府会計は現金主義で計算されている。つまり、おこづかい帳のように、現金の収支を記録するのみである。この方法の欠点は、その会計単位がもつ資産や負債を測定するのが困難であるという点にある。部外者にはある特別会計がどれくらいの資産を持つのか理解するのがむずかしい。資産が発見されると「埋蔵金」などと呼ばれるが、重要な資産は常に認識されている企業会計からみると本当に馬鹿馬鹿しい話だ。

特別会計には、船員保険・食料安定供給・農業共済再保険・林野保険・国有林野事業・漁船再保険及び漁業共済保険等々、受益者が主に地方在住者と思われるものが多い。地方交付税交付金とあいまって地方へ利益誘導を行う手段となっている様が理解できる。

特別会計の複雑な会計操作ゆえ、日本の国家財政の全貌を理解している人たちはこの世に100人もいないのではないか。その100人もおそらくほとんど既得権側の人たちで彼らが改革を提言することはない。こうやって国家財政はブラックボックス状態が続く。

特別会計をより深く定期的に監視する民間機関が必要だ。だが、著者の松浦氏のような民間研究者やそれを支援する河村氏のような政治家はまだ多くないのが実情である。国民が特別会計という伏魔殿に切り込んで行く上で、本書は地図の役割を果たすだろう。