中国語をより正確に読むための文法書の決定版

私は大学の第二外国語として中国語を学び、その後、中国に語学留学して、HSK 7級を取得した(当時 6 級以上で中国の大学入学が許可されると言われていた)。そのとき救世主のように活躍してくれた中国語文法書がこれ。1995年の出版以来、版を重ねるロングセラーである。

やさしくくわしい中国語文法の基礎

やさしくくわしい中国語文法の基礎

漢字を知る日本人にとって、中国語の読み書きは親しみやすい。1年くらい学ぶともうだいたいわかったような気がする。そして意気揚々と新聞や小説を中国語で読んでみて、ふと気づく。

「文章の意味が正確に理解できない!!」

中国語は分かち書きをしないうえに、語形変化が起きないので、文章の構造をつかみにくいのである。構造がつかめなければ文意も正確に理解できない。

本書は、その問題に対して正面から答える文法書である。中国語の文章構造をいくつかのパタンの組み合わせとして提示する。これが中国語の文章構造を正確に把握するのに威力を発揮する。

著者は中国語の文章において、構成要素の結合は次の5つの類型に分類されると喝破する。XY (X, Y は漢字)という2文字からなる単語を考えよう。

  1. 主述型
    • Xが主語でYが述語
    • 例:地震(「地」が「震える」)
    • 例:頭痛(「頭」が「痛い」)
  2. 動目型
    • Xが動詞でYが目的語
    • 例:注意(「意」を「注ぐ」)
    • 例:結婚(「婚」を「結ぶ」)
  3. 修飾型
    • X が修飾語 Y が被修飾語
    • 例:火車(「火」の「車」)
    • 例:京劇(「京」の「劇」)
  4. 補充型
    • XについてYがさらに補充説明
    • 例: 拡大(「拡がって」その結果「大きくなる」)
    • 例: 説明(「説いて」その結果「明らかになる」)
  5. 等位型
    • X と Y が同じ比重で結合
    • 例:語言(「語」と「言」)
    • 例:奇怪(「奇」と「怪」

(わかりやすさのため日本漢字を用いた)

私たちが普段使う漢字熟語のほとんどは上の5類型に当てはまることに気がつくはずだ。なかなか興味深い。

さらに面白いのは、上の5分類の関係は、単語内の漢字の結合だけではなく、より大きな構成要素であるフレーズでも同様に成立するということだ。

  1. 主述フレーズ
    • 身体 很好(元気だ)
    • 「身体」が主語、「很好」が述語
  2. 動目フレーズ
    • 听 音乐(音楽を聴く)
    • 「听」が動詞、「音乐」が目的語
  3. 修飾フレーズ
    • 中国 电影(中国映画)
    • 「中国」が修飾語、「电影」が被修飾語
  4. 補充フレーズ
    • 好 极了(とてもよい)
    • 「好」が被補充語、「极了」が補充語
  5. 等位フレーズ
    • 老师 和 学生(教師と学生)
    • 「老师」と「学生」は等位関係

実は、この構造化は文章全体に対しても適用できるのだ。

学简体字对日本人很容易 (簡体字を学ぶことは日本人にとってやさしい)


  • 「学 简体字」は動目フレーズ。
  • 「对 日本人」は動目フレーズ *1
  • 「很 容易」は修飾フレーズ。
  • 「「对 日本人」「很 容易」」は修飾フレーズ。「对 日本人」(日本人にとっては)が「很 容易」(やさしい)を修飾。
  • 「「学 简体字」「「对 日本人」「很 容易」」」は主述フレーズ。「学 简体字」(簡体字を学ぶこと)は主語、「「对 日本人」「很 容易」」(日本人にとってやさしい)は述語

このように中国語の文章は入れ子のブロックのような構造をしているのだ。おもちゃのブロック(レゴ)を組み立てる感覚で中国語を読んでいくと面白いはずだ。

日本人にとって中国語文法で一番分かりづらいと思われる補語(例:好极了の「极了」)についても、様態補語・結果補語・方向補語・可能補語の4類型に分けて、詳しくわかりやすく解説されている。

中国語で、複雑な文章の意味を正確に理解できない人や、的確に意思を伝えたい人など、初級を終えて壁にぶつかっている中国語学習者にぜひお勧めしたい一冊である。

*1:正確には介詞フレーズだが介詞は動詞と性質が似ている