21世紀の「大学」にキャンパスは要らない
宣伝めいてしまって恐縮だが、私が先日始めた Skype 相談。すでに多くの方の相談を受けた。そのような相談者の方の一人 @koba_tsuyoshi さんから以下のようなご意見をお寄せいただいた。
今日は、大変、おもしろい内容で有意義な時間になりました。
酒井さんもお疲れになったでしょうし、割りに合うのかな、、と思わなくも無いですが、商売繁盛になるといいですね。
今回の話題はどちらかと言えば、最近気になっている社会の動向について、「私はこう思うんだけども、どうでしょう?」というお話を聞いてもらった上で、酒井さんの意見や参考になりそうな海外メディアの記事を紹介してもらう、という双方向のコミュニケーションだったので知的な好奇心を刺激され、楽しかったです。
「相談」というとなにか、困りごとを解決してもらうためにお願いするイメージがありますが、今回は、話すことを通じた「脳マッサージ」とでもいうか、足つぼマッサージにでも行ってすっきりしたような感覚でした。
また、話題になった3Dプリンタに関しては、
1)インクジェットを始めとして、日本には世界を代表するプリンターメーカーが何社もあり応用できる技術を持っていそう
2)成形材料、塗料、顔料などの素材メーカーも多い
3)電機、自動車といった産業を支える3D CADエンジニア、デザイナー、金型屋といった既存業界に関連スキルをもった人も多そうというような理由から、日本企業はもっと汎用的な利用用途を広げることを考えることに注力するべきではないか、と考えています。
また、お話聞かせていただけたら、幸いです。どうもありがとうございました。
@koba_tsuyoshiさんとは日本の製造業のあるべき姿について、意見交換した。Skype はテキストのチャット機能もあるので、そこで URL など交換すると、手元でウェブサイトを閲覧することができて、対面で話す以上に濃い時間を共有できる。
「脳マッサージ」とでもいうか、足つぼマッサージにでも行ってすっきりしたような感覚でした。
と言っていただけたのは嬉しい。身体のマッサージがあるように、頭脳のマッサージがあってもいいではないか。私は、「脳マッサージ師」になりたい。
私は学校というものが嫌いだった。特に公立学校の教師たちは、権威を振りかざす一方で、独創的な発想のできる人たちが少なく、常に衝突してばかりいた。私が、唯一好きなのは、語学教師だが、彼らは教師というより「語学というスポーツ」のトレーナーという感じの立場の人たちだ。
私は、「教え導く」なんてことは子供相手にさえできないと考えている。私たちのできることは、ある人が本来あるべき姿を実現していく過程に、せいぜい多少の刺激を与える程度にすぎない。だから、私は「教師」と呼ばれるくらいなら「脳マッサージ師」「ファシリテーター」「キュレーター」などと呼ばれた方がよほど嬉しい。
私の Skype 相談サービスだが、「相談」なんていう曖昧な言葉をわざと使っているのは、話し合う内容は、私の言動を観察した結果、相談者のみなさんが決めてくださればいいと考えているからだ。驚くべきことに、いままでの相談で話題が的外れなものは1件もない。あえて傲慢な言い方を許してもらえば、まさに私に相談すべき、他ではなかなか有効な回答が得られそうもないような内容ばかりだ。私は、人と人の適性を大規模にマッチングさせるインターネットの力に改めて驚いている。
まさに @rootport さんが言ったとおり、「私の職業は“私”です」という感じなのだ。
相談者の皆さんは、みな優秀な方々が多い。共通しているのは、独創的な要素を持ちながらも、それゆえに周囲に理解者が少なく、孤独感を感じている点。日本のような同調圧力が強い国では、特にこういう人たちは生きづらいのかもしれない。
彼らこそ21世紀の創造的な時代を作っていける人たちなのだ。私は、ブログや Twitter を書き続けることで、志向性を同じくする同志とも呼べる多くの人たちと交流することができた。だが、そこまで突き抜けることができない人たちは、新時代に適応しうる優れた資質を持ちながら、孤独に苦しんでいる。
おそらく私は、こういう人たちのためにインターネット上の「塾」のようなものを作るべきなのかしれない。イメージは @sayuritamakiさんのMG(X)に近い。ネットで人が集い意見交換をしつつ、各自が生活の質を向上していけるような場。
実はこれこそが21世紀の大学の姿なのかもしれない。かつて大学は第一に学びの素材を提供する場所だった。ところが、いまや無料の学習素材が、インターネット上に大量に存在している。もはや情報は売れないのだから、教科書もすべて無料になってインターネットに置かれるようになるだろう。もう教材は問題にならない。むしろあふれるばかりの教材を取捨選択して各自の学習ニーズに応じて適切に提示できる人が重要になってくる。@HAL_J さんが、21世紀の教育に求められる人材とは「教材を縦断的に、横断的に、学際的に統合できる人」と言ったのはまさに正しかったのだ。
そこでは、だれもが「教師」になりうる。それは20世紀のような権威主義にまみれたカビ臭い古い教師ではなく、むしろ互いに自己実現の刺激となる「脳マッサージ師」なのだ。互いにインターネット上の種々の資源を引用しつつ、縦横に議論し、自在に学ぶ。もうキャンパスも校舎も要らない。インターネット上に、いままさに21世紀的な全く新しい「大学」が出現しつつあるのだ。