反応する広告とプライバシー(前編)


■「静止した広告」と「反応する広告」


最近、そもそも、
「広告とは何か?」
「プライバシーとは何か?」
と考えることが多い。


広告とは、古くは街角で配られるチラシや、店の看板のようなものであったろう。
雑誌を購読する習慣が広まるにつれ、雑誌の広告が成立した。
ラジオやテレビを視聴する習慣ができると、今度はラジオ広告やテレビ広告が生まれた。


インターネット時代の広告はどうであろうか?


インターネット上での広告は、バナー広告から始まった。
ターミナル駅のような人の多いところに、広告が張り出されるように、Yahoo のような多くのアクセスを集めるポータルサイトに不特定多数を対象にしたバナーが張り出された。バナー広告をクリックすると、広告主のウェブサイトにジャンプし、商品の詳細情報が得られる。ウェブの黎明期には、たったそれだけのことでも革命的だった。


時は下り、サーチエンジンの検索キーワードに応じて表示される「検索連動型広告」や表示するウェブページの内容を言語解析に掛けて、マッチする広告を表示する「コンテンツ連動型広告」が急速に伸びてきた。「Web2.0 への道」(参考文献1)によれば、バナー広告は「現在においてもネット広告の主流の地位にある」が「検索連動型広告はインターネット広告の成長率以上の速さで拡大し」ている。


同じインターネット広告でも、「バナー広告」と「検索連動型広告」「コンテンツ連動型広告」では、全く性格が違う。前者では、たまたまそのサイトを訪れた人は、誰であっても同じ広告を見せられる。後者では、検索連動型広告では検索キーワード、コンテンツ連動型広告では、そのサイトのコンテンツそのものをヒントに、そのようなキーワードやコンテンツに興味を持っているなら、興味を持っているであろうと思われる広告を表示する。つまり、ユーザは知らないうちに、広告を表示するウェブサイトに対して、「私はこういうことに興味を持っています」という意思表示をし、それに対してサイトは反応し、動的に広告を変えるのだ。


前者の広告を「静止した広告」、後者の広告を「反応する広告」とここでは便宜的に呼ぶことにしよう。有史以来、バナー広告までは、広告はすべて「静止した広告」であった。街角の広告と言った物理的な広告媒体は、非生物であり、特定の人間に対して特定の反応など起こしようがない。検索連動型広告やコンテンツ連動型広告に至ってようやく、「反応する広告」が生まれた。反応する広告は、そこにどのような人がいて、何を見せればいいのか考えようとする。


■「反応する広告」が機能する条件


広告の目的は、人々に広告対象の商品を認知してもらい、最終的には購買してもらうことだ。(企業の認知度やイメージアップのためのみに行う広告もあるが、この場合、その企業そのものが一つの商品であり、それを買ってもらうための努力だと考えることができる)そのためには、最初からその商品を買ってくれそうな人たちを相手に広告を打つのが効率的である。静止した広告では、その広告を掲げる場(歓楽街・女性向けファッション雑誌・フジテレビの月曜日夜9時のドラマの枠であるとか)に集まるだろうと想定される人々を、性別・年齢・職業等のデモグラフィックな切り口で定義し、その人たちにまんべんなく受けそうな最大公約数的なクリエイティブ(広告内容)を作るしかなかった。それに対し、反応する広告は、その広告を見る人が何に興味を持っているか、部分的に知っているために、より適切な内容を提示できる。


とはいえ、いまのところ、検索連動型広告AdWords やコンテンツ連動型広告の AdSense を見ても、キーワードやコンテンツとのマッチ率はそれほど高くない。まだまだ技術的に改善の余地はある。


興味深いのは、この傾向が極限まで達したときに何が起こるか、ということである。
それは、サイトを訪れる人が常に非常に興味を持つ広告が常に表示されるという状態である。当然、人それぞれみな別の広告が表示されることになる。しかし、ここまできたとき、これはすでに広告と言えるだろうか?ニッチなセグメントをターゲットにする広告を俗に「狭告」と呼んだりするが、究極のニッチな市場とは個人である。個人に対して、商品を紹介し販売を試みること - これはまさしく営業マンがやっていることである。これはすでに「広く世間に告げ知らせること」としての広告ではなく、ソリューションの提案であろう。


反応する広告が、個人に対して、ソリューションの提案を行えるようになるためには、条件がある。それは、その個人が何に興味を持っているか、という情報を開示することである。それも、興味を持っている分野=「コンピュータ」「旅行」「スポーツ」などと言った単なるジャンル分けではなく、もっと徹底的・包括的な個人情報の提示である。もし、反応する広告が、その個人について隅から隅まで知っていれば、さまざまなライフスタイルの提案ができるに違いない。


だが、そこで問題になってくるのは、プライバシーということなる。というわけで、長くなったのでプライバシーの話は次回。


参考文献
1:

Web2.0への道 (Impress Mook)

Web2.0への道 (Impress Mook)