欧米人たちとの会話

いま私が泊まっているゲストハウス街の主な宿泊客は欧米人である。欧米人といっても、英語を母語にする人は案外少なく、多くは非英語圏のヨーロッパ人であるようである。昨日は、ホテル近くのネットカフェで、隣に座った40歳くらいのドイツ人女性と会話する機会を持った。私が旧東ドイツ地域でポーランド国境に接するオーデル川沿いのフランクフルトを訪れたことがあるというと、彼女はやや複雑な顔つきで、「そうなの・・・でもその地域はいまは社会問題になってるのよね・・・」と言った。彼女が言わんとすることを私はすぐに理解した。1989年のベルリンの壁崩壊後、西ドイツが東ドイツを事実上吸収合併する形で、東西ドイツの統合が果たされたが、東西ドイツの生活水準の格差は大きく、いまだに東ドイツ地域の経済発展は立ち遅れているのだ。彼女は、ドイツ西部のケルンの出身で、そんな貧しい地域だけを見て、ドイツを判断してほしくない、という気持ちも働いたのかもしれない。やや立ち入った質問かと思いつつも、「東西ドイツ人の間に感情的な対立はありますか?」と尋ねてみると、彼女は慎重に言葉を選びながら、「そうね・・・東の人の中には過去を懐かしがったり、西に劣等感を感じる人もいるわ。また西の人の間にも、東の人に偏見を持っているひともいるみたいね。トルコ人が移民を始めて50年になるけど、まだドイツ人とトルコ人の相互理解は進んでいないし、東西融和にも時間がかかるでしょうね」と真摯に答えてくれた。

今朝、ホテルで朝食を取っていると、同じテーブル(といってもテーブルは一つしかないのだが)にフランス人夫婦が座った。話すと南フランス・マルセイユにも近い、地中海沿岸の小さな町に住んでいるという。田舎の人のよさそうな初老の夫婦という感じである。私が日本人だというと、彼らは、俄然、興味を示してきて、たどたどしい英語で話し始めた。彼らの娘夫婦が、日本びいきで、何度も日本を訪問し、最近ではフランスで日本語学校にさえ通っているという。日本のアニメが大好きだそうだ。打ち解けていろんなことを話してくれた。大柄の奥さんのほうは、バン・ミー(ベトナム風フランスパン)・ジャム・バター・紅茶という朝食だったのだが、おもむろに、パンを紅茶に浸して食べ始めた。男前でやさしげな旦那さんのほうが、笑いながら、「これはね、フランス人の癖なんだよ。どこの国の人間かわからない連中が、朝食時にこれをしていたら、フランス人だと思っていいよ。フランスでもあまりお行儀がよくないこととされているんだけどね」と言った。また奥さんが言うには、フランス人は、朝食に塩辛いものはとらないそうだ。普通は、パンとジャムだそうで、オムレツとか目玉焼きみたいなものは食べないという。ベトナムはフランスの旧植民地だが、フランス語を話せるベトナム人は多いのか?と聞くと、いまはほとんどいないという。どうやらいまやフランスの影響は一部の建築物にその面影をとどめるのみらしい。

実は、おとといベトナムに到着してから、コミュニケーションはほとんど英語で行っている。いまは、そういう環境にいるのだ。まだ日本人には一人も会っていない。今回は、ほんとうに英語ができてよかったと思う。英語がもし話せなかったら、このドイツ人やフランス人たちとの興味深い会話を交わすこともできなかったし、そもそも、ベトナムでここまでサバイブできたかどうかも怪しい。ベトナム観光には、英語を話せればたいていの用は足りるようだ。ただ私は、これから深くベトナム社会にダイブしていく。ベトナム語が必須の世界である。ベトナム語の学習にそろそろ本腰を入れる時だ。