大工さんの家

今日は日曜日。今週もニャットさんのバイクの後ろに乗って、サイゴンの街に繰り出した。

ベトナムの朝は早い。ニャットさんは朝7時にホテルにやってきた。しばらく郊外へ向けて走ること30分弱。到着したのは、公園のような広い庭に池をところどころに配置した、新しくできたカフェであった。ニャットさんは、将来カフェを作りたいという夢を持っている。カフェ好きで、いろんなカフェに連れて行ってくれるのだが、このカフェも素敵なところだった。朝から次々と客がやってくる。

しばらくして、ニャットさんの友達のヴ(Vu)さんが現れた。ヴさんは、先週の新築祝いのときにも会った人で、じつにやんちゃな性格である。いたずら好きの中学生がそのまま大人になったような人だ。かれがあまりに多く冗談を飛ばすので、まじめな性格のニャットさんは、ときどき苦笑している。田舎にある父の実家のいとこと話しているような気分だった。にぎやかで、面倒見がいい。どこか懐かしい感じである。

ヴさんは、美人の彼女をつれてきている。彼女は、朝からきちんとした綺麗な服を着て、人形のようにおとなしく無口である。ただ静かに微笑んでいるのみだ。ヴさんとは、本当に対照的だ。反対の性格だから、むしろうまくいくのだろう。

二人は、今年の年末に結婚式を挙げるそうである。ヴさんは28歳、彼女のほうは25歳くらいだろうか。東京で結婚するカップルに比べるとずいぶん若い。

ヴさんは、自分の家にニャットさんと私を招待して、昼ごはんをご馳走してくれた。

ヴさんは、大工さんをしているらしい。この家も自分で設計・施工したそうだ。外観は洋風でかわいらしい。小さな家だが、天井は高く、中は意外と広々としていて気持ちが良い。1階は、台所と居間。居間の中央に、ソニーのブラウン管TVとステレオセットが鎮座している。部屋の隅にある、小さな螺旋階段を上る。ベトナムの家は、螺旋階段があることが多い。これはフランスの影響じゃないかと誰かが言っていた。2階は、ヴさんと彼女の寝室である。壁に絵が2枚掛かっていて、やはりソニーのブラウン管TVが置いてあった。質素ながらもインテリアに工夫しているのがわかる。驚いたのは、天井である。屋根は瓦ぶきなのだが、家の内部から見て、その瓦がむき出しになっているのである。雨は漏らないのかと思わず心配になったが、ヴさんいわく、漏ることはないという。考えてみれば、これは案外よい設計ではないか。2階の部屋の天井も高く取れるわけだし。なぜ日本で同じことをしないのだろうか?やはり地震とかで瓦が落ちる危険があるからだろうか?

男3人で、近所の市場へ買出しに行く。ベトナムでは、道路の脇で、行商人がいろんなものを売っている。われわれはそうした人たちの一人から、海や川の貝を山ほど買った。それで40,000ドン(250円)。

ベトナム風の鍋料理を作った。先ほど、市場で買ったというドジョウのような魚を生きたまま入れると、鍋の中で熱さにもだえて魚が飛び回る。一匹、外に飛び出してきて、びっくりした。

ビールを飲みながら、鍋と蒸した貝を腹がはちきれるほど食べた。その後は、カラオケ大会になった。ヴさんは、今風のカラオケシステムをもっていた。DVD に情報が保存されていて、ベトナム語・英語・中国語・韓国語・日本語の歌が本当にたくさん入っていた。おそらく数千曲というオーダーだろう。日本の歌はみんな30年以上前の古い曲ばかりだったが。近所迷惑じゃないかと私がハラハラするほど、音量が大きいがヴさんはまったく意に介さない。ベトナム人は、音に関しては日本人ほど神経質ではないのかもしれない。うまい下手は別にして、みな思い思いに声を張り上げて、いろんな歌を歌い、楽しかった。