2025年の日本

アメリカの国家情報会議(NIC)が発表した2025年の世界情勢の予測レポート「世界潮流2025」(Global Trends 2025: A Transformed World (PDF, 33MB)を読んだ。アメリカ政府が、世界をどのように見ているかわかって興味深い。

ざっと斜め読みしてみた感想は、とにかく中国に関する言及が多い。中国の台頭にどうやって対処するか、ということでアメリカ政府の頭は一杯らしい。一方、わが祖国、日本に関する言及は少ない。そのほとんどは、人口の少子化と高齢化に関するものだ。

一箇所だけ、日本についてまとまって言及している箇所がある(p33-35)。その前半部分が興味深かったので、和訳してみた。

日本:アメリカと中国の狭間で


日本は、中の上の地位を維持するものの、2025年までには、国内および外交政策の大幅な見直しを迫られることになるだろう。国内的には、人口の減少、老朽化する産業基盤、流動的な政治状況に対応するため、政治・社会・経済の各方面で構造改革が行われるだろう。日本の人口減少は、日本政府に、外国人労働者への長期ビザの付与などの新しい移民政策を考案させることになるかもしれない。しかし、外国人の帰化に対する日本人の抵抗感を克服するのは難しいだろう。人口の高齢化は、日本の介護を必要とする高齢者のための医療制度や住宅制度の整備を促すだろう。


労働人口の減少と文化的に外国人労働力の受け入れを好まないことは、日本の社会保障および税収において、大きな負担となり、増税消費財の価格を引き下げるための国内産業の競争強化への要求へつながるだろう。われわれは、ハイテク製品、付加価値製品、情報技術に重点を置く日本の輸出産業の再構成が引き続き行われると予想している。日本の農業部門の縮小は続き、おそらくは全労働力のわずか2%となるだろう。これに伴い、食料輸入は増える。労働年齢の人口は、絶対数において縮小し、この中には多くの10代後半や20代の失業者や非熟練労働者が含まれている。このことは、ホワイトカラーの不足をもたらすかもしれない。


選挙における競争の激化により、日本の一党政治は、おそらく2025年までに完全に解体するだろう。自民党はいくつかの政党に分裂するかもしれない。おそらくは、競合する複数の政党の離散集合が続き、政策決定が難しくなるだろう。

外国人労働力の受け入れがいかに難しいか、二度も言及しているのが興味深い。労働人口の減少が、今後の日本の経済成長の根源的な制約条件であるが、それを克服するのは難しいだろうという悲観的なトーンである。

私の個人的な見方は、このレポートとそれほど違ってはいない。だが、まだ日本ではこの問題をどうやって解決するか正面切っての議論はなされていないように見える。日本人は、難しすぎる問題に関しては、解決をあきらめてしまう癖があるようだ。定期的に大地震に襲われて、そのたびにすべてを失う国だからか。大地震は来ることはわかっていても、ふだん話題に上らないように、火を見るより明らかな超高齢化社会の到来を目前に控えていても、できればしばらくの間、忘れていたいのかもしれない。

日本の高齢化については、他にも次のような記述があった。

今日の予測では、2025年までに、2人の労働年齢の日本人に対して1人の高齢者がいることになる。

いま仮に出生率が上昇しはじめたとしても、日本の高齢者人口比率が減り始めるのは2040年代後半になる。

ところで私はこのレポートの存在を BBC News のこの記事で知った。このレポートのフェアな要約になっている。いつもながら BBC News の記事は詳細で、このレポートの PDF ファイルへのリンクも記事の中でわかりやすく示されている。一方で、日本の報道はたとえば、この読売新聞の記事だ。BBC News よりずっと情報量は少ない。日本の新聞社の悪癖で、情報ソースへのリンクもない。インターネットのない時代なら、この NIC のレポートは、一部の専門家の目に触れるだけであっただろう。しかし、いまは世界中の人たちが気軽に無料でこの情報にアクセスできる。英語は世界のエリートたちが理解する言語である。世界中の政府の政策担当者や大企業の戦略立案者がこのレポートを読むだろう。彼らは「日本はこれから衰退していくのだな」という思いを強くするだろう。それは現実の政策や投資の意思決定に影響を与えるだろう。日本のメディアの情報発信能力が限界に達していること、インターネットで強化された英語圏の情報の豊富さと世界への影響力を改めて思わずにはいられなかった。

もっとも、BBC の紹介記事の最後はウィットが効いている。

And, our correspondent adds, it is worth noting that US intelligence has been wrong before.
なお、われわれの特派員は、アメリカの情報機関(の予測)は外れ続けているということを指摘しておく価値がある、と付け加えた。

ここらへんは、イギリスのアメリカへの対抗意識の現われだろうか。