孤児院訪問

昨日は、ベトナム人の友人ともにお寺参りすることになった。サイゴン中心部の1区から南に進路を取り、バイクで走りに走って、30分。着いたのは 7区にある Long Hoa という名前のお寺だった。見かけは、サイゴンの郊外にある片田舎のごく普通のお寺に見えたので、どうしてこんなに遠くまで来たのか、友人の意図がわからなかった。

着いてすぐに、友人は私に、ここには孤児院が併設されている、と告げた。幼稚園のように見えた建物は、実際には孤児たちが住む住居と、かれらが利用する図書館の建物だった。寺の住職の案内で、住居を訪れると、中には、規則正しく二段ベッドが置かれていた。設備は古かったが、掃除が行き届いていた。ベッドで休んでいた数人の子供たちが起き上がってきて、恥ずかしそうに挨拶をした。私がそこで見た子供たちは、日本でいえば小学生低学年程度の年恰好だった。実際には、幼児から高校生くらいまでさまざまな年齢の子供たちがおり、現在はその数、150名程度だそうだ。孤児院で育てられ、大学に進学する子供もいるらしい。

古びた住居の隣には、真新しい図書館が立っている。図書館は、ちょうど小さな公民館くらいの平屋建てである。入り口に、きれいな金属プレートがかかげられていて、 "Singapore Exchange"と刻まれている。シンガポール証券取引所が寄贈したものらしい。友人の話では、ここは有名らしく、欧米諸国からも訪問者が多いという。中に入ると、壁際の本棚には新しい本が置かれていて、デスクトップパソコンも数台ある。ここでも、子供たちが思い思いに時を過ごしていた。

住職は60歳くらいだろうか。その穏やかな表情には、万難を乗り越えて子供たちを育ててきた強い意志の力が表現されているように思えた。ベトナムという豊かではない国で、親がいないという境遇で育てられた子供たち。子供にとって親がいないということがどれくらい大変なことか、親の愛情を受けて育った私には想像し尽せない。それでもなお、こういう形で別の形で愛情を受け、礼儀正しい人間に成長していく姿を見て、人間のもつ生命力を強く印象付けられた。なんとなく、身が引き締まる思いで、私はその寺を後にした。