ベトナムの食文化の豊かさ

私は、健康のため、朝、近くの市場まで散歩をするのを日課にしている。往復1時間程度の道のりだ。市場は、朝早くから大変な活気である。

ベトナムの朝に特徴的なのは、道端に無数の屋台が出ていることだ。そこで、出勤途中の老若男女が、道端に置かれたプラスチックの椅子に座って朝食を取っている。

食べているのは、たいていは麺類だ。日本でいえばラーメンみたいなものだが、もっとあっさりしている。野菜がたっぷりふりかけられていて、とてもヘルシーな感じである。

値段は、10000-15000ドン程度(50-75円)。 ベトナム人にとってもそれほど高いわけではない。

作っているのは、年季の入ったおばちゃんたち。彼女たちにとっては、小さな道端の店でも、かけがえのない生活の糧であるために、必死に働いている。店の評判を守らなければならないため、手を抜くことはない。

一方、日本では朝食を外食しようとすると、あまりチョイスがない気がする。駅のコーヒーショップで、サンドイッチを食べているサラリーマンはよく目にする。吉野家のような牛丼チェーン店が、朝食メニューを提供しているが、私は、正直、食欲がわかない。工場で作られた食品を、経験の浅いアルバイト店員がちょっと加工して客に出しているだけの代物だからだ。何が原料かもわからないし。

日本だって、昔は、いまのベトナムのおばちゃんたちのように、元気で気合の入った定食家のおばちゃんがたくさんいたはずなのだ。経済成長するにつれ、だんだん個人営業の定食家が儲からなくなり、チェーン店にとって代わられるようになった。経済成長の必然とはいえ、結果的に日本では食文化がむしろ衰えてしまったのかもしれない。

ベトナムも今後、日本と同様の道を歩むのかもしれないが、現時点では、ベトナムの庶民のほうが日本の庶民よりまともな食べ物を食べている気がする。

そんな感慨に耽りながら、今朝も、サイゴンの喧騒の街を歩いた。