サイゴン新副都心

サイゴンの中心は、1区である。そこから南に約5キロ。7区に新しく開発中の副都心がある。その名も Phú Mỹ Hưng(フー・ミー・フン)。ここは、新しい住宅地やオフィスビルが非常に広い範囲に広がっている。東京でいえば、ちょうどお台場みたいなところだといえば、わかりやすいかもしれない。

集合住宅が続いているあたりは、ソウルの郊外にそっくりだし、一戸建ての邸宅が連なるエリアは、アメリカの高級住宅地に良く似ている。ライトアップされた巨大なオペラハウスのようなビルがあり、ホテルかと思って近づくと、オフィスビルでびっくりした。ビルや家々の間には、美しい公園が点在している。

まだ空き地も多い。これからまだまだ開発されていくのだろう。

ここはまるでベトナムらしくない。すべてが秩序の下にあり、ベトナム特有のカオスとも熱さとも無縁の土地である。美しいが、退屈で面白みのない場所だ、と思った。おそらく、シンガポールがこんな感じなんだろう。

20年後、ベトナムの各所はみなこの新都市のようになってしまうのだろうか?確かにこうした美しい場所にあこがれるベトナム人の気持ちは理解できなくはない。だが、この屋台も物売りもいない、アルコール消毒されたような都市に住むようになったとき、ベトナム人がいまと同じ人情を持ち続けるのは難しいのではないだろうか。

それとも、ベトナム人は、別の発展の道を選ぶのだろうか。そんなことを考えながら、喧騒のベトナムの中に幻のように浮かぶこの新都市を後にした。