技術者が大金を稼ぐための3つの方法

ちょっと釣りっぽいタイトルだが、内容は真面目。

シリコンバレーの「核の冬」(池田信夫 blog)より。

資本主義の条件は持続的に利潤を生み出すことだが、その基盤となっている市場メカニズムは利潤を食いつぶす。マルクスもいったように、「商品経済は偉大なレヴェラー(水平主義者)」なのだ。利潤率は傾向的に低下し、国内で鞘が取り尽くされたあとは植民地から、そして植民地が独立するとグローバル資本主義による「経済植民地」から、それも限界が来ると金融資本主義によって・・・と絶えず新しい利鞘を追求する自転車操業が資本主義の宿命だ。


しかし利潤は市場や情報の不完全性によって生じる過渡的なレントにすぎないので、市場が効率化すればするほど速く価格は限界費用に近づき、利潤は消滅する。たとえばNTTの電話収入はピーク時には年間5兆円を超えたが、いまISPの売り上げをすべて合計しても8000億円にしかならない。利潤は独占度の増加関数であり、NTTの売り上げが大きかったのは電話が独占だったからだ。

参入が完全に自由な市場においては、限界費用と価格が一致する。つまり、利潤がなくなる。これを完全競争市場というのだが、その定義は、消費者も供給者も価格支配力を持っていないということである。

逆にいうと、市場に対して何らかの価格支配力を持って、価格を限界費用の上に設定できないかぎり、供給者=企業は利潤を得ることができないということだ。価格支配力が究極に高まった状態、つまり市場に供給者が1人しかいない状態が、独占である。

価格支配力を持つための主要な方法は次の3つである。

  1. 政府許認可
  2. ネットワーク外部性
  3. イノベーション

1. については、わかりやすい。昔の電話事業のように新規参入が法律で禁止されていれば、1つの企業が市場を独占するのは簡単である。価格を自由に設定することができる。(もちろん政府の許認可は得る必要があるが)

2. ネットワーク外部性は、その供給者の財サービスを使う人たちが増えれば増えるほど、その財サービスの魅力が増えるような性質のことである。これはインターネット企業の基本的なビジネスモデルである。たとえば、Youtube に人気があるのは、Youtube が技術的にもっとも優れたサービスであるからでない。誰もが Youtube を使っているために、Youtube に面白い動画が集まりやすくなり、その結果、ますます多くの人が Youtube を見る・・・という正のフィードバックが働くからである。

3. イノベーションは、きわめて独創的な新技術(たとえば新薬)や新経営方法(例えばフランチャイズレストラン)を開発することで、新しい市場を作り出し、一時的な独占状況を作り出すことである。しかし、イノベーションによる価格支配力は、新規参入者の模倣によって速やかに失われるのが常である。そのため、先行者は特許によって対抗することが多い。特許による防衛が成功した場合、1. の政府許認可による価格支配力へ移行することになる。その財サービスがネットワーク外部性を持っていれば、2. のネットワーク外部性による価格支配力へ移行できることもある。

価格支配力というと、大企業だけが持ちうる力のように思うかもしれないが、実際には一人一人の労働者も労働市場の中で、(ごく弱い)価格支配力を持っているのである。たとえば、ソフトウェアエンジニアの場合、供給が限られているので、一人一人のエンジニアは自分の価格を吊り上げることができる(上のイノベーションに相当)。ところがコンビニの店員のような仕事は、比較的誰でもできるので、価格支配力はずっと弱くなり、時給が低下する。(それでも、労働供給量が無限にあるわけではないので、ごく小さい利潤を得ることはできる)

さて、利潤を得るには上の 1 から 3 までの方法しかないとしたら、どのやり方が自分の価値観にもっともフィットするか考えてみる。

1. の政府許認可を使った金儲けとは、要は政府と癒着することである。政治家に一生懸命献金を贈っている方々の面構えをみてもわかるが、おどろおどろしい世界であり、自分の気質には合わない気がする。

いちばんかっこいいのは、3のイノベーションによる利潤である。しかし、これは特許で保護されない限り、利潤はあっというまに消えてなくなってしまう。特許で保護するのもなー。オープンソース文化にどっぷり漬かった身にはなんだか切ない。

すると、大きな利潤を上げる方法は、2.のネットワーク外部性しかないことになる。要するに、ある市場において、ユーザーを自分の提供するサービスを使うしかないように誘導することである。無理やりではないにしろ、自然発生的にユーザーを囲い込まなければならない。ユーザーの自由度を最大にすることをモットーにするオープンソース派の人間が金儲けを目指すとき、これがほぼ唯一選択しうる方法かもしれない。

だが、それでも問題は残る。第一に、この方法で金儲けをするためには、市場で最大のプレーヤーにならなければならない。そのためには、大規模な会社組織を必要とするのが常である。そして、ネットワーク外部性による価格支配力を持つにいたる過程で一番重要なのは、一番最初に市場を作り出したかどうか(先行者利得)やユーザーをいかに早く獲得するかというマーケティング能力であって、純粋な技術力ではない。

たとえば、アメブロを見てみよう。アメブロでは芸能人ブログを積極的に取り入れることにより、「芸能人たちに興味がある若い人たち」という市場で、独占的な地位を築くに至った。ここで重要であったのは、技術力ではなく、マーケティング能力である。こうした事実は「よいモノをつくれば、必ず高く売れるはず」という技術者のナイーブな信念を深く傷つける。

技術者が、その技術者としての良心を保ちながら、金儲けをするのはなかなか難しい。