日本経済が復活するためには、大企業の改革は必須

MIT で MBA 修学中の Lilac さんが「勇気ある」問題提起。労働の流動性は、いま焦点の問題だからね。

日本企業が復活するためには、労働の流動化は必須 - My Life in MIT Sloan

日本企業が大胆な事業改革を行うにあたって、人員整理が避けられないが、人材の流動性が乏しい現状では、解雇された従業員が路頭に迷うのを恐れて、経営者は二の足を踏み、それがますます企業の経営を悪化させていく、と。日本企業の復活の必要条件として、人材の流動性を高めることは避けられない、と。どうやら、次回作があるようなので、どういう段階を踏めば人材の流動性を高めることができるのか、具体的な提案を期待したい。

日本には人材の流動性がない、という話をすると決まって「いや中小企業を見てみろ。終身雇用なんて昔からなかったんだ」ということを言い出す人がいる。確かにその通りなんだけれども、実は、日本の経済の抱えている問題の本質とあまり関係していない。なぜかというと、日本の場合、大企業がすべての中小企業の上に君臨し、二重・三重の重層下請構造を形成しているからだ。中小企業といっても、実質上、ある大企業に従属して、その「切り離し可能な」一部門を構成している事が多い。正社員の解雇がタブーである大企業では、こうした下請け企業を、景気循環にあわせて、使ったり切ったりする形で、事実上の雇用量の調整をしてきたのだ。

日本では、重要な資源配分はすべて大企業が取り仕切る。本当の意味で独立して活躍できる中小企業はごく一握りで、残りの中小企業は、大企業に隷属するようにして仕事を得る。大企業は、こういう中小企業を皮肉にも「パートナーさん」と呼ぶけれども、単に「下請業者」の婉曲表現にすぎない。そこにあるのは、封建的な主従関係であり、パートナーという言葉が本来表すような対等の共存共栄の関係ではない。

こういう状況では、いくら中小企業の間で人材がグルグル移動しても、経済の大勢に影響を及ぼさないのである。すべての仕事は大企業から降ってくる。もし大企業が愚かで、利益が出ないような経営を長く続けていれば、下請けの中小企業もろとも、日本経済全体が傾く。日本経済の問題の核心は大企業にあり、そこが変わらない限り、日本経済が上向くことはない。

日本の大企業には、潜在的に優秀な人材が大量に「眠っている」。「眠っている」と書いたのは、もし日本企業がこの人たちを有効に使えていたら、いまのような低収益にあえいでいることはありえないからだ。彼らの多くは、機会さえ与えられれば、高い収益性をもつ中小企業を経営する潜在能力がある。ただ、日本企業のなまぬるい環境に長くいたために、一時的に頭の働きが鈍っているだけのことだ。

何らかの形で、この人たちを日本の大企業の外に吐き出さなければならない。そうしないかぎり、雇用吸収力のある新興企業は育たず、日本経済の新陳代謝は起こらない。私は個人的には大組織というのが苦手だが、日本経済は組織を作る方法を知っている大企業出身者を必要としている。この人たちが作る未来の新興企業が、若者たちの雇用を作り出していくのだ。

大企業に塩漬けされている人材を外に引っ張りだすには、やはりある程度の経済的な報酬が必要だろう。彼らに残りの生涯賃金の2倍から3倍の報酬を与えることができればいいのだが。たとえば、大企業で働く、いま40歳の優秀な人物の残りの生涯の期待賃金が 1500万円 × 20年 = 3億円だとして、この人に向こう20年間で、6億円から9億円の報酬を与える地位を作り出す事ができれば。そこまで報酬が違えば、さすがに挑戦してみようという気も起こるだろう。もちろん、何らかのやりがいのために、転職したり起業したりする、というのもいいのだが、それだけでは多くの人は動かない。人材の流動性が低いのは、やはり転職して給与が下がることが多いからだろう。

いまの日本の大企業は、不必要な人材を大量に抱え込んでいて、手枷足枷をつけて経営をしている状態である。もし、そういう制約のない「ドリームチーム」を作り出すことができれば、大企業を上回る業績を上げるのはそんなに難しくないようにも思える。そこでは、大企業の数倍の給料を払うことはできるのではないか。

人材の流動性がある閾値を超えると、その後、流動性は一気に高まるはずである。日本人は他人の目を気にするたちなので、転職がごく普通のことになり、それによって収入が上がるひとが増えれば、みなこぞって転職するようになるだろう。中小企業から大企業へという今までなかった方向の人材の移動も始まるかもしれない。

大企業が変わらない限り、日本経済は変わらない。このままでは、大企業の経営が傾き、誰にも不本意な形で人材が外に吐き出されることになる。できれば、その前に、Lilacさんのいうとおり、大企業の人々が自発的に転職したり起業したり(あるいは大学に戻ったり)できるようになるといいのだが。これからもこの問題について考え続けていくつもりだ。