放射性物質のベクレルと質量の関係

放射線の影響度を表現するうえで、報道ではシーベルトとベクレルという2つの単位が使われている。シーベルトについては、Wikipedia を参照していただくとして、ベクレルと放射性物質の質量の関係について考えたい。

免責事項

私は、放射線物理学の専門家ではありません。この文章は最大限の注意を払って作成しましたが、誤りがあるかもしれません。専門家の方で間違いを発見されたらぜひご指摘ください。この情報を利用した結果、読者に何らかの損害が生じたとしても、私は責任を負いません。

参考文献

放射性崩壊

ベクレルとは

ベクレルとは放射性原子核の崩壊速度を表す単位である。ある原子核集団において、1秒間に1個の原子核放射線を発しながら崩壊するとき、放射能の強さが1ベクレルであるという。

核種と半減期

放射性核種が決まると半減期が決まる。例えばヨウ素131の半減期は、8.1日である。放射性原子核の集団では1秒に一定割合の原子核が核崩壊を起こす。この割合を崩壊定数と呼ぶ。崩壊定数も、放射性核種ごとに決まっている。半減期を T、崩壊定数を λ とすると、

λ * T = 0.7 ... (1)

の関係がある。ヨウ素131 の場合 T = 8.1 * 24 * 60 * 60 = 7.0e+05 (sec). (7.0e+05 は「7掛ける10の5乗」の意。以下同様)。
従って崩壊定数 λ は、

λ = 0.7 / 7.0e+05 = 1.0e-06 (sec-1)... (2)

これは、もし1,000,000(=10e+06)個のヨウ素131の集団があれば、向こう1秒間に1個核崩壊するだろう、ということを意味する。

放射性原子核の集団とベクレルの関係

上の結論を一般化すると、いま N 個の放射性原子核があって、その崩壊定数が λ だとすると、向こう1秒間に N * λ個の核崩壊が起こると期待できる。つまり N * λ ベクレルの放射能を持つ。

定式化すると、放射能の強さを R として、

R = N * λ (Bq)... (3)

放射性物質の質量とベクレル

質量数 w の放射性物質が質量 m (g) あるとする。 これは m / w (mol) の原子核集団を持っている。1 mol の原子核集団は、アボガドロ定数 NA に等しい個数の原子核をもつ。したがって、ここには、

N = m / w * NA

個の放射性原子核集団があることになる。「放射性原子核の集団とベクレルの関係」(2) から、この原子核集団の放射能の強さは、

R = N * λ
 = (m / w * NA) * λ ... (4)

で表される。

1 グラムのヨウ素 131 は何ベクレル?

上の公式 (3) に以下の値を代入する。

m = 1 (g)
w = 131
NA = 6.0e+23
λ = 1.0e-06 (上記(2)より)


R = (1/131) * 6.0*10e+23 * 1.0e-06 = 4.6e+15 (Bq).... (5)

1 グラムのヨウ素 131 の持つ放射能の強さは、4,600テラベクレルということになる。

1ベクレルのヨウ素131は何グラム?

これは上の (5) の逆数から求められる。

m = 1/4.6e+15 = 2.2e-16(g) ... (6)

1 ベクレルの放射能をもつヨウ素 131 の集団は、わずか10のマイナス 16 乗のオーダーのグラム数しか持たないということになる。
超微量である。

水道水 1リットルから 200 ベクレルのヨウ素131が検出された。ではこの水にヨウ素は何グラム含まれる?

上の考察から特定の放射性物質に関してベクレルと質量には1対1の関係があることがわかる。ベクレルがわかれば放射性物質の質量もわかるはずである。
1ベクレルが 2.2e-16(g) (上記(6)) であった。したがって 200 ベクレルは、

m = 2.2e-16 * 200 = 4.4e-14 (g)

これは 「4.4 の百万分の1の百万分の1のさらに100分の1」グラムである。気が遠くなりそうなほど微量のヨウ素である。それでも乳児向けの安全基準を越えてしまうというのだから、放射能の威力というのはすごい。

チェルノブイリで放出された、すべてのヨウ素 131 の放射能は、180万テラベクレルだった。これは何グラム?

180万テラベクレル = 180 * 1e+04 * 1e+12 = 1.8e+18 (Bq)

上記(6)より、

1.8e+18 * 2.2e-16 = 370(g)

このわずか 370 グラムのヨウ素 131 がかつて世界を震撼させたのかと思うと驚異である。

福島原発からすでに38万テラベクレルのヨウ素 131 が出ているというけど、これは何グラム?

38万テラベクレル = 38 * 1e+04 * 1e+12 = 3.7e+17 (Bq)

上記(6)より、

3.7e+17 * 2.2e-16 = 81(g)

たった81グラムのヨウ素 131 でいま日本中、いや世界中が大騒ぎしているわけである。

セシウム137のベクレル・質量変換係数

セシウム137でも同様の計算ができる。

T = 30(y) = 30 * 365 * 24 * 60 * 60 = 9.5e+08 (sec)
λ = 0.7/T = 7.4e-10

上の公式 (3) に以下の値を代入する。

m = 1 (g)
w = 137
NA = 6.0e+23
λ = 7.4e-10


R = (1/137) * 6.0e+23 * 7.4e-10 = 3.2e+15 (Bq)

従って変換係数は、

グラム→ベクレル: 3.2e+12 (Bq/g)
ベクレル→グラム: 3.1e-13 (g/Bq)

(追記) ベクレル・質量換算サイト

ベクレル・質量換算が簡単に計算できるウェブサイトを作ったので、ご利用ください。
ベクレル・質量換算