被曝に対する3つの立場

放射線にさらされることを被曝という。被曝にかんしては、ウィキペディアの説明がよい。これだけ読めば十分なのだが、ここでも簡単に整理したい。

被曝の影響には次の2つがある。

  1. いますぐ症状があらわれるもの(確定的影響)
  2. あとから病気になるかもしれないもの(確率的影響)

1. については大量の放射線にさらされなければ問題ない。今回の福島第一原発事故でいえば、この危険があるのは、現場の作業員くらいだ。
問題は 2. である。

政府が「ただちに健康に被害がおよぶものではない」というとき、上の 1. はないよ、と言っているにすぎない。2.の「あとから病気になるかもしれない」という点に関しては、肯定も否定もしていないのだ。

さらされる放射線の量が少なければ、病気にまったくならない人もいるし、運悪く病気になったとしてもあとあと(数年〜数十年)のことである。

これが上の「2. あとから病気になるもの」のケースだが、専門家の間に次の3つの考え方がある。

  1. わずかな被曝でも病気になるかもしれない
  2. わずかな被曝なら病気にはならない
  3. わずかな被曝ならむしろ身体に良い

1. わずかな被曝でも病気になるかもしれない

国際放射線防護委員会(ICRP)という団体がある。国際的権威で、各国はこの委員会からの勧告に基づいて自国の放射線レベルの規制を行っている。この委員会は「浴びた放射線はわずかでも、わずかなりのリスクがありますよ」と言っている。これ以下なら無害という値(しきい値)がないので、直線しきい値なし(LNT)モデルと呼ばれている。これがもっとも基本になる考え方なようだ。この場合、将来、病気になる確率は被曝量に比例する。1シーベルト増えるごとに5%発病率が上がる。

2. わずかな被曝なら病気にはならない

実は、こちらの考え方のほうは主流ではないようだ。だがそう考える学者もいて「(これ以下なら無害という)しきい値は専門家の間でもあるのかないのか、あるとすればどこなのかについては長年論争の的になっており、21世紀初頭現在も確定していない」ということらしい。

3. わずかな被曝ならむしろ身体に良い

放射線ホルミシス仮説という。ラドン温泉が身体にいいという論拠でもある。ただ学界では主流とはいえないようだ。もしこれが正しければ原発事故なんか怖くない!となるんだけどね。

あとからかかる病気とは何?

がんと白血病。基本はこれだけ。したがって、未来に医学が進歩して、がんが、風邪のように簡単に直る病気になれば、放射線を恐れる必要は薄れるのかも(?)。

妊婦は注意

妊婦さんは、わずかな被曝でも胎児が影響を受けることがあるので注意。一定の条件の下では、かならず悪影響がおよぶ。

放射線と政治

大量の放射線を浴びてその場でぶっ倒れるというようなことは現実にはあまり起きないし、核戦争でもないかぎり、そういう目に遭う人の数も限られている。むしろ一般公衆の関心事は、わずかな放射線を浴びたときの影響はどうかということだ。学界としては基本的に「1. わずかな被曝でも病気になるかもしれない」が定説。

ただ今回の原発事故に際して政府は「2. わずかな被曝なら病気にはならない」という立場に立つしかない。放射能はばらまかれてしまったし、ほんのわずかでも被曝したらダメとしたら、東日本に住む場所がなくなってしまうからだ。どこかで現実的に割り切るしかない。1年間100ミリシーベルトまでなら OK とか言ってるのは、あとあと病気になる心配がまったくないからではなくて、統計の上で、因果関係が立証できないというだけの話。

ただ「一定値未満なら病気にならない(しきい値あり)」と信じている学者もいるようなので、政府の作る基準値もまるっきりウソというわけでもないかもしれない。

政府は「3. わずかな被曝ならむしろ身体に良い」と主張してもいいのだが、あまりに異端すぎて国民が納得しないだろう(笑)。

結局は、各人がよく調べたのちに、上の1, 2, 3 のどれを選ぶか自分で決めるしかないと思う。ちなみに私は「1. わずかな被曝でも病気になるかもしれない」と思っている。