仕事で英文メールを書く人が読むべき1冊

日本人が仕事で英語を使うとき、案外、会話はしないものだ。一番多いのは読み書きだろう。電子メールという技術によって、世界の裏側まで一瞬かつほぼ無料でメッセージが届けられるようになったからだ。私は7年前、インド系のIT企業で働きはじめたときも、大量の英文メールを書く必要に迫られた。そのときに手にした本がこれ。

英文ビジネスレター&Eメールの正しい書き方

英文ビジネスレター&Eメールの正しい書き方

タイトルの通り、ビジネスレターの書き方から始まっている。いまどき、フォーマルな紙のレターを書く人はだいぶ減っているのかもしれないが、これが意外と面白い。英文電子メールの書き方も一定のルールがあるのだが、それはビジネスレターの書き方を簡略化したものだから、ビジネスレターに関する知識があるのは役にたつ。外資系企業の求人へ応募するときに送るカバーレターを書くのにも役立つだろう。この本を読むまで、私はフォーマットにもイギリス式とアメリカ式の2通りがあることを知らなかった。

著者の松崎久純氏は、1967年生まれ。南カリフォルニア大学を卒業したのち、名古屋大学大学院経済学研究科修了。外資系企業及び日本企業で働いた後、独立。海外滞在も長い国際派のマーケティング専門家として活躍している。

さすがマーケティングのプロだけあって、自分の著書も読者にとって非常に飲み込みやすくパッケージ化されている。目次から大項目を拾うと、

Part 1 英文ビジネスレターと英文 E メールの体裁
Part 2 英文ビジネスレター 20の実例
Part 3 パターンで覚える文章構成の仕方
Part 4 使いやすいセンテンスと事例集

という風に、文章要素の「大きな単位」→「小さな単位」と配列されている。文章の構造を重んじる英語の考え方にも沿っている。実は、これが日本人の一番弱い部分でもあるのだ。日本語は、不思議な言語で、俳句や短歌といった短い文章に関しては、厳密な構造を要求するのに対して、長文に関してはあきれるほど放縦である。英語はその反対で、長文に関しては通常、厳密な形式に従って書くことが期待されている。

次の4つのパラグラフで書きなさい、と著者は言う(p.50)。

■パラグラフ1
用件・結論を述べる。
または、何についてのレターかを特定する。
(あつさつや形式的な文章ではなく、用件・結論を書くか、レター内容を特定する)

■パラグラフ2
用件・結論をサポートする根拠・内容・詳細を説明する。
(パラグラフ1で用件・結論を述べていない場合は、ここで述べる)

■パラグラフ3
用件・結論をサポートする根拠・内容・詳細を説明する。

■パラグラフ4
結びを書く

これはごく普通の英語の文章構成で、昔、TOEFL の勉強をしたときも、同じことを教わった。英語は基本的に直裁な言語で、まず結論を書く。何が欲しいのか。何を言いたいのか。そういうことを書く。そしてどうしてそう思うようになったか、その後に書く。そして、最後に、念押しのように、結論をもう一度書く。

日本語のビジネスレターとの最大の違いは、回りくどい挨拶語がほとんどないという点だ。日本語の文章は、相手との関係性を気にしすぎて、装飾的な部分が多く、結局、何がいいたいの?と首を傾げざるものも多い。よい英語の文章では、焦点は用件に当てられている。だから、日本語に直訳するとややぶしつけな感じさえするが、英語ではこの程度でちょうどいいのだ。

この「4つのパラグラフ」という構造を日本語のメールに応用することもできるだろう。その結果、メールの趣旨を理解しやすくなり、読み手に喜ばれるかもしれない。

現実のビジネスシーンの場面ごと(「通知する」「取引先を探す」「商品を売り込む」等々)に、多数の豊富な例文があげられているので、英文を書く必要に迫られている人たちは、これらを下敷きに自分の文章を完成させることができるだろう。

この本のテーマはビジネス英語だから当然なのだが、ここに出てくる英語の書き方はかなりフォーマルだ。ビジネスの種類にもよるのかもしれないが、何度か電子メールのやり取りをして、担当者と仲良くなれば、もう少し崩した書き方をしてみてもいいかもしれない(とくに IT 産業などはカジュアルだ)。もちろん、この本の内容のように書ければ、とりあえず差し障りはないだろうと思う。

日本にいても、インターネットのおかげで、海外の会社やサービス等に接触する機会は増えている。面識のない人に英語メールを送る上での礼儀を知る意味でも、この本に目を通しておいてもよいかもしれない。

追記:
@tkpilgrim さんが Twitter で重要なことを指摘してくれた。
一点抜けている重要なこと。冒頭で必ず相手を褒める。どんなにひどい仕事をされていても、そうするのが常識

確かにその通りだと思う。英語は、日本語よりずっとポジティブな形容詞を多用する言語だ(日本語に直訳すると甘ったるく感じられるくらいに)。

個人的には、私は英文メールの返事を書くときは Thank you for... から書き出すことがほとんどだ。自分からメールのやり取りを始めるときにも、なるべく相手を褒めるように書きはじめるのがよいだろう。

"Recently we have found your amazing products on the web and got greatly interested in them. We would like to ask a few questions regarding them..."

みたいな感じで。