スティーブ・ジョブス追悼記

スティーブ・ジョブスが亡くなった。まだ56歳だった。

彼が8月に Apple の CEO を退任したときも、これで療養に専念できるだろう、と前向きに考えていた。彼は、何度も死の恐怖を乗り越えて来た人だ。今回もまた克服できるだろうとぼんやり考えていた。

だから、今朝、ツィッターのタイムラインに彼の訃報が流れて来たとき、自分の目が信じられなかった。いままでも何度もあったように、誤報ではないのか。それが最初に考えたことだった。

だが Apple が公式に彼の死去を発表したという。そこに至って、私も彼が死んだというニュースを認めざるをえなかった。

「いい奴ばかりが先に死んで行く」という昔のアニメの台詞を思い出した。まだ死ぬには若すぎる。

ジョン・レノンを思い出した。彼も弱冠40歳にして、凶弾に倒れた。2人とも、才能に満ちあふれ、非常に個性的で、多くの人に愛され、人気の絶頂で倒れた。

なぜこんなに魅力的な人間がこんなに早くこの世を去らなければならないのか。世界をいままで変えてきて、これからも変え続けたであろう人を私たちは永遠に失ってしまった。

不謹慎かもしれないが、新しい日本のためには、むしろ早くこの世を去ってほしい老人たちの顔が何人も思い浮かんだ。なぜ死ぬのがこうした社会の変革を拒む老人ではなく、スティーブ・ジョブスだったのか。この世の不条理さに改めて唇を噛み締めるしかなかった。

茫然自失として、何も手につかなくなった。私は、涙があふれて、モニターの前で声を上げて泣いた。知り合いでもない人物の死がこんなに悲しかったのは初めてだ。

私がコンピュータを使い始めたときからずっとスティーブ・ジョブスはいて、いつでも私のヒーローだった。Apple 製品を使っているときも、使っていないときも。彼は、私にとって、IT の未来の方向性を指し示す北極星のような存在だった。そんな彼が、もうこの世にいないなんてまだ信じられない。いったいこれから何を道しるべに生きて行けばいいのだろうか。

スティーブ・ジョブスは、イノベーションという言葉をまさに体現した人物だった。生けるイノベーション。でも彼はもうこの世にはいない。残された人類は彼なしにイノベーションを進めていかなくちゃいけないのだ。

Eat your own dog food という言葉がある。「お前が売っているものをお前は本当に使いたいのか?」というテストなのだが、スティーブ・ジョブスは自分の売るものを心底愛し常に携えていただろう。これって当たり前のように見えて、しがらみだらけの現実世界では案外難しい。

私も、自分が本当に満足の行くプロダクトを作って売りたいと思った。そして彼の残した仕事のわずかな破片でも完成させることができたら嬉しいと思った。

スティーブ・ジョブスは、非常に癖の強い、つき合いづらい人物だったらしいが、立場を越えてこれほど多くの人に愛された人も珍しいだろう。彼の業績は、間違いなくエディソンと並び称されるべきもので、人類に永久に記憶されるべき偉人だ。スティーブ・ジョブス、いままで本当にありがとう。魂よ、やすらかに眠れ。

追悼リンク集

どん底時代のスティーブ・ジョブズの思い出
Market Hack の広瀬さんの素晴らしいコラム。1990年代末のジョブスのスランプ時代に広瀬さんがスティーブ・ジョブスと個人的に交わした会話の数々。ジョブスがその本当の力を発揮するには、まだ時代が早すぎたのだろう。

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