世界一のガラケー嫌いによるガラケー体験記

私はとにかくガラケーが嫌いで嫌いでほとんど憎しみに近い感情をずっと抱いて来た。ガラケーの仕様は特殊日本的すぎるし、開発者の立場から見るとバッドノウハウだらけで、とても私の趣味に合わなかったからだ。ガラケー全盛の5年前から「こんなものいずれグローバル仕様の海外製に負けてしまうよ」と憎まれ口をはたいていたところ、海外製スマートフォンが日本市場で勢力を伸長しはじめて、とうとう予言通りになってしまった。気がつけば出遅れた日本メーカーは Android スマホもまともに作れない身体になっていた。ガラケーの滅亡は時間の問題だ。そうなると奇妙なもので、ガラケーに対する憎しみも薄らいできた。

私は、いままでガラケーを憎むあまり、3大キャリアの携帯は過去6年間一度も使わなかった筋金入りのウィルコムユーザーだ(6年前に持った携帯は会社支給品だった)。だが、ガラケーが滅亡する前にいちどくらい実際に使ってみてもいいかもしれないと思うようになった。それにガラケーを批判するのに、一度も使ったことがないんじゃ、電子メールを使ったこともないのにインターネットを批判するじいさんと同じじゃないか。

そういうわけでガラケーを買ってみた。

以下、実に6年ぶりに使う携帯電話の第一印象を記してみる。

複雑で邪悪な料金プラン

キャリアはいちばん一般的なドコモにした。どうせガラケー体験するなら、いちばんありふれたものがいい、と思ったからだ。

購入したガラケーは、高くも安くもないごく普通の機種 SH-11C ブラック だ。

白ロム docomo シャープ SH-11C ブラック 未使用品

白ロム docomo シャープ SH-11C ブラック 未使用品

某大手量販店で買ったのだが、手続きが面倒なこと面倒なこと。オプションの組み合わせが複雑すぎて、店員の説明を聞いていても頭が破裂しそうになった。忍耐強く説明する店員の姿に感心するとともに、これが日本の強さであり同時に弱さなんだろうな、と思った。

携帯の料金プランやオプションが複雑なのは、歴史的なしがらみを引きずりつつ、複雑なマーケティングプランを実行し続けた結果なのだろう。本当はもう少し単純化すべきなのだが、それに伴う痛みを経営陣が負う度胸がないのだ。そしてそのツケはすべて現場に転嫁される。

日本の現場の人たちは、安月給にもかかわらず勉強熱心で忍耐強く勤勉に働く。外国では、ドコモのオプションを完全に理解して客に伝えうる人材をあの給料では雇用できないはずだ。現場の無能さが、現場のオペレーションを単純化しようという経営者の動機になるのだが、日本の場合、幸か不幸か、現場が複雑さを力技で呑み込んでしまうのだ。それゆえ、日本では複雑なものが複雑なまま、現場の犠牲のもとに続いて行く。

この量販店では、複雑なオプションを始めから付けさせることを条件に、SH-11C を9,800円で販売していた。だが店員さんはやや言いにくそうに「オプションは明日にでもコールセンターに電話して外せますので…」と教えてくれた。やれやれ。

購入時に選択した料金プランは「ひとりでも割★50・タイプSS バリュー(980円/月) + iモード(315円) + パケ・ホーダイ・ダブル(最低390円/最高4,410円) + 諸オプション(1291円相当/割引価格で携帯電話を購入するために強制加入)」だ。

私は、これを通話用に使うつもりがほとんどないので、すぐに「ひとりでも割★50・タイプシンプル バリュー(780円) + iモード(315円) + パケ・ホーダイ・シンプル(最低0円/最高4,410円」に変更した。

やれやれ、どんだけ複雑なんだ…。

ドコモのユーザー層はほぼ偏りなく全日本人で、こういう複雑な料金プランを理解できないひとが数十パーセントはいると思われる。こういう複雑なプランを用意することで彼らに本来必要のないカネを吐き出させることができるだろう。邪悪なマーケティングだ(世間はこれを賢いマーケティングと呼ぶのかもしれないが…)。

複雑さで客を煙に巻き、余計なカネを払わせるという手法は、主に国が税法を通じて使う。どこの国も税法は死ぬほど複雑で、それゆえに多くの納税者たちが節税しきれずに余計な税金を払っている。ドコモの料金プランはこれに似ている。まさに「ドコモ税」である。

ドコモにしろ他のキャリアにしろプランの複雑さを売りにするのは、誰にとっても不幸な不毛な行為じゃないだろうか。確かに彼らは余計なカネを手にするかもしれないが、社会全体で失うものも多い。その代償がガラパゴス化だったのかもしれない。

SH-11C の良いところ悪いところ

まだ使いはじめて30時間しか経っていないが、ざっとあげると…。

【良いところ】

  • デザインはよい。シンプルで薄い。
  • レスポンスはそこそこよい。
  • SH-11Cは生活防水がついているので風呂でも使える。これは便利で、新しい体験だと感じた。
  • 日本語変換が超賢い。長年の経験の蓄積だろう。
  • ガラケーの i モードはスマホくらべてパケット通信料金が安い。

【悪いところ】

  • 要らないオプションサービスがプリインストールでてんこ盛り。これには勘弁してほしいと思った。
  • 全体的な UI (UX) の一貫性がなさすぎて気持ち悪くなる。いくら分権的に開発されていると言っても、ライブラリやフレームワークを共用化することによって、ルック&フィールに統一性を持たせようという発想はなかったのだろうか?たぶん技術者に何も決める権限がなかったのだろう。

スパムフィルターがないのは大人の事情?

ドコモの携帯メールを設定していてあることに気がついた。「ドコモの携帯メールってスパム対策にまだベイジアンフィルターを使っていないのか?」と。ベイジアンフィルターとは、Gmail で採用され、スパム対策に絶大な効果を発揮している技術だ。ところが、ドコモはウェブサイトで「メールアドレスは長いほうが迷惑メールが少ないという統計があります」とか間抜けなことをいうだけで、まだこの技術を採用していないらしい。

Gmailスパムフィルターはほぼ完璧に機能しているのに、なぜ同じことを天下のドコモができないのだろうか?ドコモの携帯メールも相当量のトラフィックだろうが、Gmail ほどではあるまい。単に技術力の差だけじゃない気がした。

「スパム業者からもパケット通信料がとれるので、キャリアはまともにスパム対策しない」という説を唱える人もいる。もし本当なら言語道断としかいいようがない。さすが私がこの10年間憎み続けた携帯業界だけのことはあってブラックだ。

Gmail 式のスパムフィルターを実装しても、迷惑メールフォルダをときどきのぞけば、間違ってスパムに分類されたメールを救いだすことができるし、まともなスパム対策サービスに対して月数百円の課金をすれば、商売にもなるとおもうのだが…。

日本人の「ネット怖い」病は、ドコモ等の携帯キャリアがまともなスパムフィルターを実装せず、怪しいメールが大量に送りつけられてくることから発病したんじゃないか、という仮説を思いついた。やっぱり自分で実際に使わないと見えてこない発想がある。それだけでも携帯を買った甲斐があったというものだ。

i モードを使用して

まず最初にやってみたのが i モードブラウザで「はてなダイアリー」の私のブログを見てみること。段落と段落の間の空行がない!!。超ウザイ…。これははてなの問題なのか、iモードの問題なのか、この携帯 SH-11C の問題なのか…?他の機種でも空行がないという報告が Twitter であったので、たぶん、これは i モードの問題なのかもしれない。
(後日談:結局これははてなダイアリーの設定を変更することによって解決した)

Twitter クライアントとしては、モバツイが一番気に入った。公式サイトより使いやすい気がした。jigtwi という i アプリベースの Twitter も素晴らしいけど、i アプリを起動すること自体が面倒くさく感じてしまった。

Youtube がかなり快適に使えるのに驚いた。iアプリ上で動くニコニコ動画はちょっと厳しいかな、と思った。一般的に i アプリにはまだあまり慣れない感じがした。

携帯小説なるものをはじめて携帯で読んだ。空行がやたらに挿入されているのが不思議だ。とにかく文章がマンガチックというか平易で、文学的な味わいはまるでないけれども、大衆受けはするのかもしれない。私がたまたま読み始めた小説は、実に1600ページ(!)もあった。そのため、読みかけの位置に戻ってくるサービスがあるのだが、「ブックマーク」ではなく「しおりをはさむ」になっているのがあじわい深かった。「ブックマーク」という外来語さえ理解しないような層を相手にしている商売だからだろう。

実は、今回携帯を買った理由の一つは、いま一世を風靡しているソーシャルゲームを試してみたいということがあった。私はソーシャルゲームに対しては否定的な立場だが、実際に使いもせずに批判するのはフェアじゃないと思ったのだ。とりあえずモバゲーを使い始めたのだが、まだ分からないことが多すぎる。次回、ソーシャルゲームを実際にプレイした感想を書いてみたい。