フィリピン留学・ラングリッチ一日体験入学

フィリピン・セブ島に来て約1週間になる。

眺めのよいギークハウスに居候する楽しい日々。今日は、ラングリッチさんのご厚意で、1日体験入学させていただくことになった。もっとも一般的なのはマンツーマンの6時間授業なのだが、体力の限界に挑戦する意味で、私は8時間授業に挑戦した。

ラングリッチの現地校の授業は、通常6時間から8時間。基本2時間が一区切りの授業になる。この一区切りごとに先生が交代するので、通常3人から4人の教師から英語を学ぶことになる。ただし学校側の都合で私は1人の同じ先生から学ぶことになった。

今日の先生は Nikki 先生。華奢な感じの20代半ばの先生である。父親が75%の中国系ということで、フィリピン人にしては色白なほうだ。最近「韓国人ですか?」と見知らぬフィリピン人から英語で尋ねられたとか。中国系の血は混じっていても、中国人という意識は全くなく、文化的には100%生粋のフィリピーナだと思っているそうだ。

Nikki 先生

マンツーマン授業なので、基本、学ぶ内容は、学生が主体的に選ぶことができる。学校側でも教科書を用意しているものの、日本から学生が自ら持ってきた教科書で指導を行うこともあるそうだ。

1-2時間目は、ラングリッチが用意している Business One:One と Impact Issues という教科書を学んでみた。

Business One:Oneは生きたビジネス英語が満載でなかなか手強かった。「商品を注文する」がテーマで、ワイナリーに電話をしてさまざまなワインを発注するロールプレーイングをした。買い付けできる予算が決められていて、納期や大口割引等の交渉するなど、なかなか高度な内容だった。実際、この教科書で苦労する生徒は多いという。

Impact Issues では、あるテーマに沿って議論を行う。

先生は、「独身であり続けることは是か非か」を議論のテーマに選んだ。話題はフィリピンの結婚制度に。教会婚法律婚事実婚の3種類があり、もっとも保守的な人たちは教会婚を選ぶが、ただ同棲するだけで届けを出さない事実婚が最近増えているようだ。

3-4時間目は、1時間の昼食を挟んで前半(11-12)と後半(13-14)に分かれる。1-2時間目でかなり真面目に教科書をやったせいで、疲れ切ってしまい、前半はやや雑談モードに。

先生はもともと看護師の資格をとったのだが、仕事がなく、これからコンピュータープログラマーになりたいという。私がプログラミングについて話を始めると先生は目を輝かせた。プログラミングを学ぶには 、まず Windows の上に VMWare を走らせて、そこに Linux でもインストールするいいよ、と説明した。とりあえず無難な CentOS がいいと思うけど、デスクトップ用に使うなら Ubuntu がいいのでは?などと話すと先生は熱心にメモを取っていた。

実は Nikki 先生、可愛らしい外見とは裏腹に、ネットゲームオタクであり、StarCraft, Diablo, CounterStrike といった PC ゲームを遊び倒した人であることが判明。電子機器に興味があり、わざわざ香港から仕入れるこだわりぶり。フィリピンでいちばん使われる電子商取引サイトは eBay で決済手段PayPal が多いらしい。

この先生は以前フリーランスのライターをやっていたと言っていた。顧客は個人だというので不思議に思ったが、どうやら米国あたりの大学生が課題書を読んで書くレポートの代筆をやっていたらしい。フィリピンへのこうした「アウトソーシング」は英語圏ではかなり盛んなのかもしれない。

3-4時間目の後半は、TED Video を見て議論した。お題は、「パトリシア・ライアンの英語だけに固執しない!このエントリでも紹介したとおり「英語が出来ないからと言って才能ある人たちを埋もれさせていいのか」という問題意識からのビデオで、英語の教育者には深く考えさせられる内容だ。先生は、「英語を学ぶからといって、米国人みたいに考えたり振る舞ったりする必要はない」という意見だった。先生は父母・祖母の3人ともまったく違う言語を話すとか、ハチャメチャな言語環境で育った話をしてくれた。

5-6時間と7-8時間は、フリートークが中心となった。

Nikki 先生は、英書の大変な読書家だ。米国の大学生のレポートを代筆してリピーターを得るほど英語力があり、どんな内容も本を読むだけで独学で習得してしまう優れた頭脳を持っている。それだけに自分の人生の方向性に迷うこともあるらしく、人生論を語ったりもした。

先生は文章力のあるひとなので、私の書いた英語ブログを添削してもらった。単数/複数や冠詞の問題が指摘された。冗長な表現を簡潔にしたほうがいいとも言われた。私の英語はとりあえず通じるけど、まだまだ不自然な英語表現が多いのは自覚している。英語はほんとうに難しい。

フリートークではいろいろヤバい話題も語り合った。フィリピンの腐敗した政治状況、米国の麻薬汚染、フィリピンの同性愛事情等々。フィリピン人の純粋異性愛者は60%しかいなくて、残りはゲイ・レズビアンバイセクシャルだとか。にわかに信じがたい数字である。タイにもゲイは多いし、東南アジアはとくに同性愛者が多いのだろうか…?

私はフィリピン人の海外への移民問題に激しく切り込んだ。「インド人は医者、中国人はビジネスや技術者等で成功するけど、なんでフィリピン人は海外で肉体労働系の仕事ばかりしているの?」と。どきどきしながら尋ねたのだが、先生は優しく答えてくれた。キーワードは "easy money" だという。

フィリピン人は、激しい競争を勝ち抜いて、名誉ある地位に着くより、米国で人が嫌がってやらない仕事をやってさっさとカネを稼ぐ方がいいのだという。どちらにしろフィリピンで稼ぐよりよほど多くのカネが稼げるし、目的はフィリピンの家族や親戚に送金することなのでそれで構わないということらしい。

先生に「仕事が皿洗いのような肉体労働だとしても、米国に行けるなら行くか?」と聞くと、しばらく考えたあと「私は結構プライドが高いのでそれはしないと思う」と答えた。それはそうだ。あんな知的な人が皿洗いはないだろう。

フィリピン人が本当に不思議に見えるのは、政治も経済もこんなグタグタな国で、そのグタグタぶりをおおいに認めつつもフィリピンを愛しているようなのだ。この感覚は中南米諸国も同じような印象がある。スペインの旧植民地ってどうしてどこもこんな感じなんだろうか…。

フィリピン(と一般化すればラテン諸国)は、政治経済は縁故主義(nepotism)と汚職でグタグタだが、人間は最高に魅力的なのだ。笑顔が素晴らしい。人生を謳歌しているさまがひしひしと伝わってくる。たぶんこの2つのことは1枚のコインの両面なんだろう。

イージーマネーを追いかけるフィリピン人は、日本的な価値観から言えば「負け組」だし、資本の蓄積が行われないという意味で反資本主義的でさえある。これだけの英語力という人的資源を持ちながら、韓国人資本が入るまで外国人向け英語教育もまったく盛り上がらなかった。商売気のまるでない人々だ。

好意的な見方をすればフィリピン人は資本主義の原理にまったくそわない生き方をしてきたため、国際社会でずっと冷や飯を食わされてきた「世界のお人好し」とも言えるのかもしれない。拡大家族内部の相互扶助によって人々は生き延びてきた。欧米が個人の自己実現を重視するのとはまったく異なる行動原理といえるだろう。

かなり密度濃く喋り続けたので、私は本当にクタクタになった。8時間授業を受けてみて思ったけど、予習復習を濃くやるなら、たぶん8時間は多すぎかもしれない。ただ現に毎日8時間マンツーマン授業をやっている学生さんもいる。本当にすごいね…。

Nikki 先生の英語の発音は完璧な米国英語だった。目をつぶって聞いているかぎり、米国人が喋っているとしか思えない。だが、彼女は文化的にはアジア人でありフィリピン人であると自認している。若干は欧米に影響されている(whitewashed)とは言っていたけど。何とも不思議な感じだ。

一昔前までは、英語=米加英豪の言語だった。私は10年前カナダで英語を習得した人間だ。英語圏以外で英語を学ぶというアイディアには、はじめ違和感があった。

ところが、先日会った、フィリピンで英語を学びシンガポールでの就職を希望する韓国人は、欧米にはまったく関心がないと断言していた。欧米とは直接関係のない「アジアの共通語」としての英語、というものがあってもいいのかもしれない。

フィリピン人から英語を学ぶと、従来は当然それに付随して学ぶことになっていた北米や英国の文化については十分に学ぶことができない。それを問題視する保守的な英語教育者もいるかもしれないが、ある意味「だから何?」と言えなくもない。結局、英語学習の目的次第なのだ。もし活躍の場をアジアに求めるなら、ビジネス英語をそこそこ覚えた後、必要な現地語を多少学んで、現地の文化に精通するほうが重要だろう。

Nikki 先生は「英語を学ぶのに、白人(英語圏の主流の人々)みたいになる必要はない(You don't have to be whitewashed to learn English.)」 と言った。英語が真のグローバル言語に成長する過程で、文化からの中立性は獲得していかざるをえないだろう。英語圏からの反応は複雑だろう。既得権益(status quo)を奪われる過程で、抵抗する人々が出てきてもおかしくない。

米国を中心とする伝統的英語圏の政治経済的勢力の相対的低下と、グローバリゼーションの進展に伴う共通語としての英語需要の爆発的増大が同時に起こっているので、私たちは何とも奇妙で不思議な場所に取り残されている。いまは世界の政治経済に巨大な地殻変動が起きている真っ最中なので、未来の方向性を見定めるのはなかなか難しい。

ただし、英語を学ぶために米加英豪等の伝統的英語圏に行く意味はだいぶ薄れてきていると言える(文化的なものを学びたかったり、その後、その地で大学進学や就職を考えているなら別だが)。フィリピン人の英語力は、日本人に英語を教えるには、十分以上である。そういう英語技術的なものより、フィリピン人の明るさや親切さが、なにより、彼らを最強の英語教師にしている。

まずは安価で手軽なオンライン英会話から始めてみるといいだろう。私はラングリッチ以外はあまりやったことはないが、他にもいろいろサービスがあるので、比較して自分に一番合うものを見つけてみたらどうだろうか。

補足1

ちなみにソフトウェアエンジニアとして見たときラングリッチのウェブサイトは技術的に非常によく出来ていると思う。デザインがきれいだし講師予約等の機能がとても使いやすい。

補足2

フィリピン留学の現状や留意点を知るための実践的ガイドとして、

フィリピン「超」格安英語留学

フィリピン「超」格安英語留学

がわかりやすい。著者は実際にフィリピン留学して英語を習得。この本について以前書いた書評は、こちら