革命的ソフトウェアエンジニア宣言
私は、もともと好き嫌いが多いほうである。物事を白黒付けたがるほうである。和の精神という美名のもとで行われるあいまいさが嫌いである。ブログで読者を獲得するにはネガティブなことは言わないほうがいい、という定石に従って、あまりネガティブなことは言わなかったが、嫌いなものについて述べるほうが舌が回るほうである。ならば言ってしまおう。
「ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている」は本当にすばらしいブログエントリである。しかし、もっとすばらしいと思えるのは、このブログエントリに対して 500 件以上のはてなブックマークがつき、その圧倒的多数がこのエントリに熱烈なエールを送っていること。日本のソフトウェアエンジニアたちも捨てたものではない。
日本のソフトウェアエンジニアの大多数が従事しているシステムインテグレータ(SIer)業界がどこか根本的にまちがっているのは、良心をかけらほどでも持ち合わせたエンジニアなら誰でも理解しているところだ。実際、その感覚が正しいことは統計にも現れている。(あらためて衝撃――日本のソフト産業を統計分析する)日本の SIer はソフトウェア開発の本質に反することをやっていて、その結果、生産性を上げることができず、低収益の体質にあえいでいる。
上の「ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている」にあるように、諸悪の根源は、ソフトウェア開発を上流と下流に分断し、同じソフトウェアエンジニアを「プログラマ(PG)」と「システムエンジニア(SE)」に分けていることにある。私は、いちおうこの業界に10年以上いるが、いまだに上流・下流とか PG・SE という呼称に慣れないし、正直、大嫌いだ。この点を、一般の人たちに聞いてみようと「はてな人力検索」で質問したが、そのときは現状肯定的な返答が多く、胸のつかえが取れるような答えには出会えなかった。
たとえば、こんなIT人材こそ辞めてほしい!という記事に登場する傲慢な人事担当者たち。プログラマやデザイナは職人である以上こだわりを持っているのは当たり前。そういう人間を使えない自分たちの無能さを棚にあげている。私から言わせてもらえば、こういう連中こそ IT 業界から辞めてほしい。こういう連中が会社の中心に居座っているから日本のソフトウェア企業は革新的たりえないのだ。
だが、この手の「コミュニケーション能力だけを売りにする連中」の跳梁跋扈を許してきたのは、ほかならぬソフトウェアエンジニア自身であるのも事実だ。本当にいいシステムを作りたいと思ったら、そのシステムがどんな経済的価値を生み出し、それが関係者のどう分配されるのかという流れを理解しなければならない。ソフトウェアエンジニアは自分たちの地位の低さやソフトウェア業界のどうしようもなさをただ嘆いたり、変わるはずがないと絶望したりするのではなく、変えていくように自分の声を発信していく必要がある。そうこれは本質的に政治的な運動なのだ。まっとうでないことが行われているなら、まっとうになるように変えていかなければならない。それができるのは、本当の意味で現場を知っているソフトウェアエンジニアだけなのだ。
とにかく、何がいいとか何が駄目とか理念的に言っているだけでは駄目だ。まっとうな仕事がまっとうな利益を生み出す仕組みを考えること。われわれは資本主義の世界を生きているのであって、金儲けという大目標の前には、結局何人もひれ伏すしかないからだ。