中国のグレート・ファイヤーウォールに関する妄想

グレート・ファイヤーウォールという言葉をご存知だろうか?これはグレート・ウォール(万里の長城)をもじった言葉で、中国のインターネット検閲システムのことを指す。言論の自由がない中国では、人々のインターネット利用は厳しく監視され・制限されている。と、いうと、まるで北朝鮮のように、人々がインターネットを全然使えない姿を想像するかもしれないが、そんなことはない。人々は普段は自由にインターネットを使っている。そんなものがあるとさえ、気がつかない人もいるくらいだ。この検閲システム、じつに精巧なのだ。

アメリ国務省の調査によれば、中国にはインターネット規制のために少なくとも3万人以上の専門家が政府職員として雇われており、政府の意図に反するインターネット利用者(政府・共産党への批判など)を取り締まっている。更に当局にとって好ましくないネット使用者を取り締まるために、全国に警察要員が配置されており、ホームページや個人メールを検閲して、政府・共産党にとって有害な情報を探し、その当事者を取り締まっているという。

3万人ですよ、3万人!でも中国のインターネット人口は、すでに2億人以上いるということだから(ソース)、その約1万分の1の人員である3万人ですべて監視できているなら、相当効率的なシステムともいえる。(だって従業員1万人の会社のインターネットの活動を1人で監視することを考えたら発狂しそうだよね?)

中国が採用しているインターネット規制システムは、主として米国のサンマイクロシステムズが開発を請け負ったものであると言われている。なるほど、先進的で洗練されているはずである。

マイクロソフトGoogle と言った名だたるアメリカの IT 企業は、中国政府と密接な連絡のもと、中国でのビジネスを行っている。中国の高官とこうした IT 企業の役員たちは、人的なパイプがあるようだ。(BBC ラジオでそんなことをマイクロソフトの技術担当重役が言っていたのを耳にしたことがある)

私も、かつて中国に住んでいるとき、このグレート・ファイヤーウォールには実に悩まされた。私の好きな BBC News のサイトにはアクセスできないのである。Google のキャッシュにもアクセスできないし、翻訳サイトでもヤバイ URL は翻訳ができなかった。しかし、巧妙なのは、たいていの場合、あるサイト全体が見えないのではなく、そのサイトの中の特定の URL だけが見られないのだ。中国政府がいちばん嫌うのは、政治的な言動だ。例のチベットやら台湾やら。こうしたコンテンツだけピンポイントで狙い撃ちしてくる。しかも、日によって見られたり、見られなかったりする。非常に頻繁に、発禁 URL を管理していることをうかがわせる。

あれがもう4年前だから、いまの検閲はもっと巧妙になっているだろう。

これは世界最大のハッキングと言っていい。特定のサイトを丸ごと発禁処分にするのは簡単かもしれないが、検索エンジンのキャッシュや翻訳サイトの URL とか、ありとあらゆる穴をつぶすには、インターネットに関する相当深い知識が必要だ。それに、これだけの検閲システムがありながら、中国国内では、そこそこの速さで外国のサイトにアクセスすることができる。非常に効率的に処理を行っている。要員 3 万人のほとんどが、NG ワードに引っかかったコンテンツを監視したり、発禁 URL を登録するオペレーターだとしても、少なくとも数百人は、非常に優秀な技術者を中国政府のごく中心部に抱え込んでいるにちがいない。

想像してみてほしい。中国の政府の中枢に、インターネットをきわめて深く理解した数百人の技術者がいる可能性を。中国政府は、インターネット規制をきわめて重視しているので、彼らには相当大きな権限が与えられているはずだ。

これってある意味すごいことかもしれない。

将来、中国の民主化が進展し、言論の自由がもたらされるようになったら、当然、グレート・ファイヤーウォールもなくなるだろう。しかし、インターネットに精通した大量の技術者たちは残る。彼らは、中国政府の IT 政策のアドバイザーとして活躍するのではないだろうか。アメリカの先進的な IT 企業とのパイプもある。もし中国の政府内部の風通しが十分よいならば、こうした人材を生かして、的確な IT 政策を打ち出してくる可能性がある。

さて、ひるがえってわが祖国、日本(笑)

秋葉原の事件に関連して、予告.in の話が面白い。

矢野さんは11日夜、「増田寛也総務相が来年度予算の概算要求に、ネット上の犯行予告を検知できるソフトの開発費を盛り込む。費用は数億円かかる」という内容の報道を見て、「インターネットの仕組みを使えば、0億円で数時間でできる」と考え、実際に1人で2時間で作ったという。

問題は、誰がこの総務相に「数億円かかりますよ」と耳打ちしたか、だ。2時間というのは速すぎだとしても、この程度のシステムなら、普通の人が作ったとしても1ヶ月くらいあれば十分だろう。
どんなにかかっても、数百万円のオーダーだ。数億円というのは桁が2つ違う。この「数億円」の見積もりをした人物がいかにインターネットに関して無知か、無残にもあらわにされている。(おおかた、ぼったくりの IT ゼネコンの筋からの数字じゃないかな)

中国のグレート・ファイヤーウォールを作った技術者なら、いくらと見積もりするだろうか?みなさんはどう思いますか?