日本経済への不安

日本経済に対する強い不安はぬぐえそうもないです。
その原因について2つ考えてみました。

1) 日本の短期的な経済状況
2) 日本の中期的な経済状況

順に説明していきたいと思います。

1) 日本の短期的な経済状況

これは、新聞がよく取り上げる種類のマクロ経済的状況です。
金利・株価・為替レート・原油価格・GDP成長率・・・云々。
おそらくことの起こりは、アメリカのサブプライム問題の深刻化だと思いますが、アメリカの金融システムが動揺し、投機資金が一次産品へ向かい、原油をはじめとした資源・食料価格が暴騰しました。

そのため、世界各地でインフレが勃発し、金利の引き上げにより、経済活動が抑制され・・・という風に、景気後退の衝撃波がアメリカから全世界へ広がりつつあります。

日本もインフレとなれば金利は引き上げざるを得ないし、アメリカや中国への輸出が減少すれば、日本経済の成長も抑制されることでしょう。

・・・ということですが、実は私はこの程度のことはあまり心配していません。こうした景気変動は数年にいちど必ず起こるものですし、この程度の波にもまれてつぶれてしまう企業は、そもそも効率的な生産が行えない企業なので、つぶれてもかまわないのです。

2) 日本の中期的な経済状況

マクロ経済的に見たとき、いまの日本について不安なのは、向こう5年から15年の中期的な(供給側の)見通しについてです。

供給側(サプライサイド)という意味は、簡単にいうと経済における付加価値を作り出す能力という意味です。産業と簡単に言ってしまってもいいかもしれません。

日本には鉄鋼・工作機械・自動車・電機といった従来型の産業に変わる新産業が育ってきていません。古い産業分野は、かならず新興国に激しく追い上げられ、利益率と雇用吸収力は傾向的に低下していくでしょう。ホリエモンが活躍していたころの日本には、まだ何かが起こるかも知れないという期待感がありましたが、ライブドア事件が起きてから、新興市場にはペンペン草も生えていないようです。東証マザーズ全体の時価総額は1.8兆円で、全盛期の2005年12月に比べて 1/4 になってしまったようです。
縮む日本の新興市場

これは実に大きな問題です。しかし、おそらくは日本社会のさまざまな原因が複合的に絡んで発生している問題なので、解決には時間がかかると思われます。

ポール・クルーグマンというアメリカの有名な経済学者がいますが、彼は、かつてこう喝破しました。「経済指標で重要なのは、失業率と生産性とだけだ」と。

失業率が重要なのは、人々の間の所得格差に直結するからです。(所得分配の問題)しかし、究極的に重要なのは、生産性です。一人の人間がより少ない手間で多くの価値を生み出すことができなければ、その経済に属する人たちは全体として豊かになることはできません。

アメリカなどの日本以外の先進国は、製造業から IT や金融といった、より生産性の高い産業へシフトしてきました。一人当たり GDP はその国の産業の生産性を表すと考えていいです。もちろん実際の経済はもっと複雑で、生産した価値の分配の問題があり、経済成長により多くの恩恵をこうむる人たちと、そうでない人たちに分かれてしまうものの、経済全体としては豊かになりました。

しかし日本では残念ながらそういうことは、バブル崩壊後のこの15年間に起こっていません。全体のパイが大きくならないところで、豊かになる人が出てきた反面、よりひどい貧困に突き落とされている人々が増えています。

正社員ポジションはどこへ? - Chikirinの日記

このエントリでは、中高年が正社員のポジションを死守し、若者たちが望まない非正規労働に追い込まれている姿が統計上の数字で生々しく示されています。

ここで既存の企業を批判するのは的外れだと思います。本音はともあれ、建前上は日本は自由な市場経済の国のはずですから、企業がどのような形態で従業員を雇用するか、あるいは外部業者へアウトソースするかは、原則として自由なはずです。

問題は、古い企業が雇いきれなかった人たちを雇用する新しい産業が生まれなかったことです。

かつて日本の農業は生産性が低く、家族全員で農作業をしても、十分な収入が得られませんでした。農業にそれで食える数以上の人が張り付いている状態、つまり過剰労働力があったわけです。しかし、製造業が立ち上がり、日本のいたるところに工場が建てられるにつれ、雇用はこうした新しい産業に吸収されていきました。製造業は農業より生産性が高く、人々の所得は大幅に向上したのです。

いま日本の主力である従来型の製造業は、雇用吸収力の限界まで来ているのです。ですから、どうしても非正規雇用が増えます。ここで、非正規雇用を規制すれば、むしろ従来型の製造業は非正規雇用を打ち切って雇用自体を減らすでしょう。

新しい産業こそが、こうした余剰労働力を吸収すべきなのです。
しかし、それが生まれないという絶望。
ここにいまの日本の最大の閉塞感があります。