反日感情について

マスコミ報道だけを見ると、韓国はいつも反日感情であふれている、という印象を持つかもしれないが、実際に、韓国を旅行して嫌な思いをすることはまずないといっていい。旅先の韓国人はまず文句なしに、過剰なまでに日本人に対して親切である。

だが私は韓国に対して幻想もまた持っていない。歴史的経緯から、韓国には、日本人個人に対してではないにしろ、国家としての日本への「反日感情」はいまもなお根強く存在する。昨日も、ジョンノという外国人も多く訪れているソウル中心部を歩いていたら、次のようなメッセージの横断幕に出くわした。

「日本の歴史歪曲・独島(竹島)問題は、日本製品不買で懲らしめよう!グァンチョルドン(たぶん町名)文化発展委員会」

やれやれ。日本人観光客も来るような繁華街の通りなのに。もちろんハングルで書かれているので、たいていの日本人は気がつかずに通り過ぎてしまうだろう。グァンチョルドン文化発展委員会が何者で、韓国社会でどのような地位を占めているのかは知らない。だが、いかにも韓国人がやりそうなことなので、私はおもわず苦笑してしまった。

私の友人で3年近く韓国で過ごした日本人がいる。彼は、きわめて韓国が好きな男で、それが高じて韓国の大学まで卒業してしまった。彼は流暢な韓国語を話し、じつにさまざまな韓国人と付き合った。それでも、竹島問題などが韓国国内で加熱したときなど、針のむしろにいるような気持ちだったという。

私の韓国人友人たちはみな進歩的な考えの持ち主で、外国体験が豊富な人たちが多い。日本のことも冷静に見ているし、それなりに好意も持っている。それでも、韓国の中では、公の場で「私は日本が大好きです!!!」と叫ぶのは、いまだに危険を伴う行為であるようだ。だから、反日感情が沸騰するとき、ひそかに日本の応援をしたいと思っている韓国人たちも、その激流のなかで身を守るためには沈黙せざるを得ない。

私は、韓国の歴史を考えると、それもある程度は仕方ないことだと思っている。朝鮮半島は、地政学的に大国に取り囲まれる位置にある。有史以来、周囲の大国間の力関係の変化に、国内政治が常に翻弄されてきた。思えば、7世紀に、三国時代の末、新羅百済高句麗を滅ぼして、初めて朝鮮半島を統一したときも、中国(唐)の助けを借りている。韓国では、その後も、国内の対立する政治勢力が外国の助けを借りて反対勢力を倒そうとするようなことが幾度もあった。日本のように地理的に孤立しているために、基本的に国内政治は日本人だけの間で完結していたのとは対照的である。韓国では、どうしても周辺の外国の意図、そしてそれと結びつく国内の政治勢力に対して疑心暗鬼にならざるをえないのだ。

個人的に韓国の反日感情は残念なものだと思っている。私が日本人で日本が憎悪の対象だからではない。激情ゆえに、理性的な判断の目が曇り、韓国人自身の益にならないと思うからだ。おそらく韓国の反日感情が和らぐには、国内政治の安定性に関して完全な自信をもつ必要があるだろう。実際に、韓国が経済成長を遂げた今日、反日感情はかつてほど極端な形はとらなくなりつつある。最終的に、自分の歴史を完全に客観的に振り返ることができるようになるのは、おそらくは北朝鮮問題が解決した後のことだろう。もう少し時間が必要なようである。