セーオム擁護論

セーオム(xe om, バイクタクシー)というものをご存じだろうか? 車ではなくバイクで客を運ぶ商売である。「地球の歩き方」では「台数も多く、乗りこなせるようになると便利な乗り物だが、最近は悪質なドライバーも多く、トラブルも増えている」と悪意に満ちた紹介を受けている。そのため、私はベトナムに来て、しばらく警戒してセーオムには乗らなかった。サイゴンに来ても、最初は普通のタクシーばかりだったのだが、ある日勇気を出してセーオムに乗ってみた。

私 「いくら?」
セーオム「20,000ドン」
私 「15,000ドンでどう?」
セーオム「だめだ。20,000ドン」
私 「・・・」(背中を向けて立ち去る)
セーオム(我慢できなくなり叫ぶ)「わかった!乗れ」
私 「15,000ドン?」
セーオム「OK」

こんな調子の会話を交わして、交渉成立。目的地についてから、別の金額を言い出すかとおもいきや、先に決めた金額を渡すと、あっさり去っていく。これに味をしめて、やがてセーオムに乗ることが多くなった。いまは、私のメインの交通手段になっている。

私は、サイゴンですでにセーオムに50回以上乗ったが、大きなトラブルはない。一回、小さなトラブルがあったが、それはセーオムの運転手が私が英語で提示した価格を聞き取れず、勘違いしたからだ。それを教訓に、価格は必ずベトナム語で言うようにしている。どっか変なところに連れて行かれたりとか、目的地に到着してから別の金額を提示されたりとかいったトラブルは一度もない。セーオムの運転手は、洗練された人たちではないが、決して悪人ばかりではない。中には悪い連中もいるかもしれないが、一部の人間を指して全体を悪のようにいうのはいかがなものか。

たしかに、メーターがないので価格は口頭で交渉しなければならない。日本人は、お人よしが多いので、乗る前の価格交渉を怠ったり、そもそも金額の言い違い・聞き違いでトラブルになることはあるのかもしれない。だが、それはその日本人が抜けているのであって、セーオムのおじさんのせいではない。

ベトナムのメインの交通手段は、紛れもなくバイクである。セーオムはそういう意味ではいまやもっともベトナムらしい乗り物といえる。ベトナムに来てバイクに乗らないのはもったいなさすぎる。