金儲けというタブー
IT業界の人たちにはやや癪に障る部分も含まれているかもしれないが、私のいまの気持を素直に書いてみる。
これから起こる新しいこと?
私は、1996年にこの業界に飛び込んだ。以来13年。基本的には、ソフトウェアの請負開発の分野でソフトウェアエンジニアとして働いてきた。私が、この世界に飛び込んだ1996年ころは、インターネットが学術の世界から離れて、一般社会へ普及し始める黎明期で、技術的な洗練度は低いものの、何が起こるかわからない楽しさがあった。それから、実にいろんな出来事があって、いまに至る。パソコンの世界では、とりあえずインターネットの小道具はだいたい出揃ったような気がしている。これ以上、革新的なウェブアプリケーションを求めるのは難しいのではないか。(Google Wave とかわけのわからないソフトも多少あるけれど)
これから、何か新しいことがおこるとしたら、小さなデバイスの世界だろう。いろいろあるが、本命は携帯電話か。iPhone, Android あたりが進化を遂げて、インターネットへの主要なゲートウェイになっていくだろう。パソコンの時代は、まもなく終わろうとしている。デジタルデバイスは、小型化するという定向進化がここ50年以上続いていて、携帯電話もさらに小型化して、将来的には、より身体に密着した形へ変化していくに違いない。まさに「電脳メガネ」のような世界で、画面は網膜に直接投影、入力は、瞳孔の動きをセンサーで把握して、網膜スクリーン上のソフトウェアキーボードで行い、音は骨伝導で直接聴覚神経に伝える・・・等々。現在のコンタクトレンズのように、極めて身体に負担の少ない形で、超小型デバイスを身体に長時間密着させることが可能になっていくだろう。そして、私たちは1日24時間、ネットワークにつながりっぱなしの状態になる。(「オフラインになる権利」が大きな社会問題に発展していくかもしれない)
電脳メガネくらい出たら、ちょっと使ってみたい気がするが、正直、私はいまの携帯電話系のソリューションにあまり興味がもてない。ぶっちゃけ、パソコンで十分じゃない?5万円前後で売られているネットブックの重さが1キロ以下になる日もそんなに遠くない。パソコンが700グラムくらいなら、携帯性は十分だし、下手な携帯電話系ガジェットを使うよりよほど使いやすいと思う。まあ、もう私は時代遅れの人間なのかもしれないが。
技術的成功=商売上の成功?
この先、技術屋としては耳が痛いところなんだけど、技術者って、「いいものを作れば、高く売れて、自分も金持ちになれる」と信じたい人種なんだよね。でも、現実はどうか?昔、Borland という開発ツールで有名な会社があった。その中でも Delphi という Objective Pascal ベースの開発ツールは実によくできていた。ライバルの Microsoft の Visual Basic なんかまったく目じゃなかった。でも、商売上勝ったのはどちらか、というと Microsoft なんだよね。悲しいことに。Borland はマーケティングと財務で Microsoft に負けた。
ソフトウェアって、正直言うと、中身がいいか悪いかは、商売上の成功とほとんど関係ない。なぜなら、お客さんには中身は見えないので。スパゲティコードでも、とりあえずお客さんの要求を満たして、マーケティングが上手であれば、そこそこ成功する。お金が入ってくれば、技術屋なんていくらでも買える。悲しいけど、これが現実なんだよね。なぜこうなるかというと、経済学でいうところの「情報の非対称性」があるからなんだ。もしお客さんが、ソースコードの一行一行を精査する能力があるのなら、よいソースコードを書くことは、高い収入に直結するかもしれない。だが、実際にはそれはありえない。
金儲けというタブー
職業プログラマがなんでプログラムを書くかというと、やはり一義的にはカネのためだ。もし、プログラマがカネを稼ぐ必要がないのなら、べつに「職業」プログラマにならなくたっていい。現に、趣味だけでプログラムを書いている「サンデープログラマー」は大勢いる。ならば、職業プログラマは、仕事という点に関しては、「カネを稼ぐ」という点に焦点をあわせるべきだ。
じゃあ、一体どうやったらカネを稼ぐことができるのだろうか?いわゆるスーツの言われるままに、与えられた仕事を人月いくらでこなせば金持ちになれるだろうか。IT業界の給料は、そんなに悪くはない。それでも十分生活していくだけのお金は稼げるだろう。大部分の職業プログラマはこの領域で満足しているように見える。
しかし、もっと稼ぎたいと願う、私のような強欲な人間はどうしたらいいのだろうか。たぶん、自分自身が「スーツ」になっていくしかないだろう。カネの流れをコントロールしているのはスーツたちなのだから。
技術者がスーツになった場合、犯しやすい過ちは、上で書いた「よいものを作れば、売れる」幻想である。私は、中小企業を渡り歩いてきた。だから、社長たちの働き方を間近で見てきた。社長たちは、みな真面目で働き者であった。だが、本当に多くの会社で、ほとんど儲かっていなかった。売上は、かろうじて人件費をカバーする程度で、余裕はほとんどなかった。毎年が綱渡り。働いても働いても楽にならないのだ。
こうした技術者社長は、財務もマーケティングも知らず、どうやったら自分たちの商品を高く安定的に売れるか、という視点が欠けていた。金儲けを正面切って考えること自体がタブーのような雰囲気さえあったかもしれない。
スタートアップでカネを稼ぐには
これから、先の文章は、素人の戯言である。私自身、大学は経済学部の出身だが、財務の実務はほとんど知らない。
自転車操業的にソフトウェア開発の仕事を受注して、納品をして代金をもらう、ということの繰り返しだけでは、どこにも行き着かないのではないのか。ではどうしたらいいのか。たとえばこんなシナリオはどうか?
技術・マーケティング・財務の専門家が3人で、ソフトウェア会社を設立する。そして、早い段階で従業員30人くらいの会社にする。ベトナムをはじめ、発展途上国なら人件費は安いので、少ない資金でも、これくらいの人間を雇うことは可能だ。そして、この会社を1億円くらいで、どこかの大企業に買い取ってもらうのである。立ち上げから、売却まで5年くらいを考える。1億円の売却益は、創業者3人で出資比率に合わせて山分けするわけだ。
まあ、1億円とかそういう数字は適当である*1。 要点は、「商品だけを売るのではなく、会社自体を売る」ということも視野に入れて、ダイナミックに商売を考えようよ、ということだ。日本では、なぜか自分の会社を売却することがタブー視されている。人間の情と資本の論理がしばしば相反するのは事実だが、時には我々の幸福のために、資本の力を利用するということも重要ではないだろうか。
私は、いま、ここらへんの事情を勉強したいと思っている。自分でベトナムに会社を作るにしても、出口戦略のない、単なる自転車操業の会社にしたくない。そのままでは、この世にブラック企業が一つ増えるだけだからだ。
ただ、どこから手をつけたらいいかよくわからず、こまっている。とりあえず、数字に慣れるために、政府の経済統計の勉強をしているが。何かヒントになることがあれば、みなさま是非ご教示ください。