他者を信頼して仕事を任せること

シンガポールにやってきた。

サイゴンからの飛行機では、ベトナム人の若い夫婦が私の隣に座った。客室乗務員が入国カードを配ったので、書き込もうとペンを取り出そうとすると、隣に座った奥さんが私に二枚の入国カードとパスパートを突き出して、「書いてくれ」というそぶりを見せた。シンガポールの入国カードは英語のみで書かれている。英語がまったくわからないから、英語のわかりそうな人間に代わりに書いてほしいということらしい。

なんという・・・その大胆さに私は驚いた。もし、私が意地の悪い人間で、「あなたは過去、入国に拒否されたことがありますか」とかいう質問に "yes" とこたえていたらどうするのだ?大変なトラブルに巻き込まれるかもしれないのに。もちろん私はそんなことはしなけれども。私は見ず知らずの他人に入国カードを代筆してもらうなんて怖くてできない。

しかし、これが私の限界なのかな、と思う。「頭がよすぎる」のだ。先の先まで読んで、過剰に防衛的になりすぎる。

この先からは妄想だが・・・。この夫婦は、無理な借金をして家を買っているのかもしれない。事業を起こして、従業員を使っているのかもしれない。まったく知りもしない外国人に入国カードを平然と代筆させるような人たちだ、相当無謀なことをしているのかもしれない。

でもそれでいいのかもしれない・・・。それくらいの蛮勇がなければ、この世で現実に何かを成し遂げることはできないのかもしれないのだ。この世は、人と人の相互関係から成り立っている。詰め将棋のように、先の先まで読んでそれで終りという単純なゲームではない。無謀なことでも、がむしゃらにやっているうちに何とかなる、ということはままある。

事業を起こせるかどうかは無茶な挑戦に賭けられるか否かにかかっているのかもしれない。おそらくは、カネがあるとか頭がいいとか、そんなことは全く関係ないのだろう。